2020年11月08日

ひとくず

 空き巣に入った男が児童虐待被害にあっている女児と出会うプロットですが、いかにも昭和風のテイストが剥き出しの暴力と感情のぶつかり合いによく合い、観客の心を揺さぶります。エピローグはまさにお見事でした。

 作品情報 2019年日本映画 監督: 上西雄大 出演:上西雄大、小南希良梨、古川藍 上映時間117分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:シネリーブル池袋 2020年劇場鑑賞233本



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 【ストーリー】
 粗暴な空き巣金田(上西雄大)は押し入ったマンションの一室で、玄関の外からカギをかけられ、食べ物もなく汚い格好で家のなかに閉じ込められていた幼い少女鞠(小南希良梨)を発見する。自分も幼いころ虐待にあった金田は鞠を連れ出し、食事を与え服を買い与えるが、鞠の全身には虐待を受けたあざがあった。

 鞠に虐待したのは母の凛(古川藍)の愛人の男(川合敏之)だった。金田は、鞠への暴行を止めようとして男を殺してしまう。そして、遺体を凛に手伝わせて山中に埋めた後、3人は疑似家族のように暮らしだすのだが…

 【感想】
 タイトル通り、人間のクズのような登場人物が山盛りです。金田は汚い関西弁で女だろうがすぐに手が出るおよそ近寄りたくない人間。凛も最愛の娘が虐待されても、とめようともしません。また、幼い金田も母(徳竹未夏)とその愛人(城明男)に虐待されていたわけです。怒号と暴力がとびかう、まさに社会的底辺の世界です。特に上西の訥々としているけど粗暴ないいまわしは、映画的巧さではなくて底辺のリアルを醸し出している感じでした。

 しかし、金田も凛も本性が腐っていたわけでなく、虐待の連鎖や貧困といった社会的構造も大きいわけです。虐待を受けても、あるいは受けているからこそ純粋で礼儀正しい鞠に金田も次第に感化されていきます。そして凛も金田が落ち着くにつれて、疑似家族として受け入れ、自分も落ち着いていきます。環境が少しでも変わって救われる人がいるというのは小さな光といえるかもしれません。

 また、昭和的テイスト満載でスマホなどのアイテムをのぞけば、キャラクターの髪型や化粧、BGMも含めて昭和の映画としても納得しそうな感じ。それこそ昭和の家父長的な暴力、男尊女卑的発想が今なお残っていることを浮彫にさせます。主人公の苗字が金田というのも、そういうことを想像させる意味深長なもの。
 
 上西監督が30年以上児童相談所に勤務している児童精神科医師の楠部知子さんと知り合って、一気に書き上げた作品。楠部さんの経験もあり、こういう虐待が実際にあるというのはなんともやりきれません。同時に、くずのような人物たちから何とか子供を救おうとする人たちの困難さも容易に想像がつきます。

 映画でも小学校の担任や児童相談所が鞠を保護しようとしましたが、圧倒的な暴力の前になかなか有効な手立てができませんでした。こうした公的機関と、虐待から守ろうという近しい大人が協力すれば、事態は改善すると信じたいものです。このあたりは、自分自身がなんて甘い人間なのかと見ていてガツンと殴られた気でした。

 そして、子役の小南希良梨の純粋無垢さ。なぜ、彼女のことを金田が来るまで本気で守ろうとしなかったのか。同じようなテーマでは熊澤尚文の「ごっこ」がありましたが、ごっこではまだ地縁がある意味残っていたけれど、本作の3人の疑似家族はどこからも切り離された孤立した存在です。そんな3人の関係がどんどん深化していく様子はなんともたまりませんでした。エンドロールの途中にエピローグがあるのでお見逃しなく。
posted by 映画好きパパ at 07:02 | Comment(0) | 2020年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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