2020年11月15日

ウルフウォーカー

 アイルランドの伝説をモチーフに、オオカミと少女の共生をめぐるアニメ。女性の自立や環境問題といった現代的なテーマをしっかりいれつつ、おとぎ話としての魅力も両立させた秀作です。

 作品情報 2020年アイルランド、ルクセンブルク映画(アニメ) 監督:トム・ムーア、ロス・スチュワート 声の出演:オナー・ニーフシー、エヴァ・ウィテカー、ショーン・ビーン 上映時間103分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町 2020年劇場鑑賞240本



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 【ストーリー】 
 中世のアイルランドを占領したイングランドは、城壁都市の周りの森を伐採して開拓地にしようとしたが、狼たちに邪魔をされた。イングランドから狼退治のために雇われた猟師のビル(声・ショーン・ビーン)は娘のロビン(オナー・ニーフシー)と城壁都市に引っ越した。

 ロビンは自分も弓矢の名手だから猟につれていくようせがむが、ビルは女の子には危険だと許さない。こっそり後からついていったロビンは狼を退治しようとして、誤って自分の飼っていた鳥のマーリンを撃ってしまい、さらに狼用の罠につかまって樹上からぶらさげられてしまう。そんなロビンを一匹の狼が助けてくれた。狼は人間と狼と魔女の血がまじったウルフウォーカーの少女、メーヴ(エヴァ・ウィテカー)で、ロビンとすっかり仲良くなるのだったが…

 【感想】
 非常に独特のタッチのアニメーションで、狼の姿はデフォルメされているとはいえ、こちらに伝えたい特徴をよくつかんでいます。人間キャラクターも、いかにも美男美女の最近の内外のアニメと違い、昔懐かしい力強さを感じさせます。さらに、狼視点だと匂いなどが線になってみえるという幻想的になっておりアイデアもなかなかのもの。

 ウルフウォーカーは昼間は人間で、寝ているときに魂が狼になって駆け回るというケルトの伝説だそう。メーヴも最初は狼の姿で現れ、ロビンを助けようとしたのに誤解されて争いになります。その時にロビンにかみついたことから、ロビンもウルフウォーカーの能力をもってしまいます。

 城壁都市は女は猟でなくて調理場に閉じこもっていろという古い男性社会。それに反発するロビンですが、ビルがロビンを愛するがゆえに、上から押し付けられた規範に従わせようとするのはみていてつらい。ロビンもビルを尊敬しているだけに、余計、親子の相克がかなしくなります。また、イングランドはよそものであり、町の子供たちからはロビンは疎外の対象です。

 一方、狼も町の人にとっては恐れる対象であり、疎外されたロビンとメーヴが森や山野を狼の姿で自由に駆け回る姿は本当に楽しそうで美しい。女性はこうしなければならないとか、野生動物は狩る対象であるとか、そういった殻を見事にやぶっています。これは現在のフェミニズムや環境問題にも通じるでしょう。

 物語の悪役は町を支配するイギリスの貴族、護国卿です。これまた恐怖政治を町に敷くとともに、森林を破壊して開拓地にイングランドから開拓民を送り込んで地域を支配しようというもの。恐怖と力で支配しようというのは現代の大国の政治家たちと似たようなものです。護国卿が熱心なクリスチャンで、神の名のもとに破壊をするというのは、これまた現代にも通じる視点があります。また、狼の魔法は治癒魔法なのに、護国卿が大砲と鉄砲で森を焼き払うという対照的なところも意義を感じます。

 ただ、そんな難しいところはさておき、ロビンが友情と父親の板挟みにあったり、命がけの大冒険を繰り広げるという、王道のストーリーを味わうだけでも十分楽しめます。少女が成長していくというのはこういうことなのか、というのが同じ娘をもつ父親としてよくわかる。小規模上映がもったいない多くの人にみてもらいたいと思いました。
posted by 映画好きパパ at 08:11 | Comment(0) | 2020年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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