作品情報 2020年日本映画 監督:大庭功睦 出演:水川あさみ、浅香航大、 寄川歌太 上映時間120分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:川崎チネチッタ 2020年劇場鑑賞253本
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【ストーリー】
とある地方都市。中学校の学級委員長( 寄川歌太)は、いじめられている親友の裕翔(池田優斗)をかばおうとして自分がいじめの標的となってしまう。彼の唯一の心の支えは、同級生で絵がうまい女子生徒、天野(木下渓)が以前と変わらず話しかけてくれることだった。
厚生労働省の若手官僚鷹野(浅香航大)は、連日の激務に心身ともに疲労していた。だが、非正規雇用の若者の自殺が相次いでいることについての対策をしなければならず、自分と同じ年なのに自殺した青年について調べてみることになる。
30代後半の主婦、翠(水川あさみ)は優しい夫、拓己(水橋研二)との生活を続けていたが、周囲から子供はまだかというプレッシャーを感じていた。だが、拓己は真剣に考えず、翠は不安を感じるようになる。
【感想】
中学校のいじめ、非正規雇用の過酷な生活、そして高齢出産と3つのテーマに3人の主人公がおり、それぞれのエピソードが入れ子のように入っていきます。原作者の萩原がいじめを受け、非正規雇用だったことの繁栄でしょうが、もう一つ高齢出産をテーマにしたのは命の大切さと人の絆の重要さを訴えたかったのでしょう。
正直、見終わった後の評価はあまり高くありませんでした。しかし、映画を咀嚼していくうちに、奥深さに思い至りました。なぜ、非正規雇用の青年は25歳で自殺しなければならなかったのか。そこだけ切り取ると映画的なエピソードの一つでしかありません。けれども彼は25年間人生を歩んできて、つらいこともたくさんあったけど、救われたり、だれかとつながっていることを実感できたときもあったわけです。それにもかかわらず、最終的に死を選んだのはどういうわけなのか。彼という人間のことをじっくり考えることではじめてわかるような気がしました。
中学のいじめパートは、これまた映画やドラマでよくあるような展開です。でも、こうしたいじめに苦しむ人は今もどこかにいるわけです。委員長には天野という救いがあり、これはボーイ・ミーツ・ガールという側面からも、うまくできたエピソードになっています。先生や親があてにならない孤独な彼にとっての絆とは何だったのか。母親役の坂井真紀がまたうまく、親子それぞれが互いを思いあっているがゆえに、どうにもならない焦燥感は、同じ親の世代の僕としてはなんともつらかった。
高齢出産パートも、一見翠の意見をなんでも聞いて優しく見える拓己が、実はすべて翠に丸投げしていただけのことに気付いた時、夫婦の関係というのは一体何なのかと思ってしまいました。子供を産むことについて、女性と男性では温度差があるでしょうけど、ここまで他人ごとに思えるというのは何なのでしょうか。また、翠がいまのような世の中に子供を産みたくない嘆くところもありますけど、そういう社会になぜなってしまったのか。結局、いじめや非正規雇用を切り捨てるような社会の不寛容がここにも出ている気がしてなりませんでした。
水川が最近みたなかでは珍しく等身大の悩む女性の役。浅香も悩めるエリートという役で、ちょっと新鮮な感じ。新鮮といえば、寄川と木下の初々しさは3つのパートのなかでも違った感じを見せてくれます。ストーリーが重いのでその初々しさもむなしいといえばむなしいのですが。そのほか、坂井や染谷将太といった芸達者も映画の奥行を深くしてくれました。
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