2021年02月02日

ヤクザと家族 The Family

 序盤は邦画伝統のやくざ映画と思わせつつ、後半に現代的なテーマをいれ、時代の流れに逆らえずに滅びゆく美しさと人生の無情、幸せと不幸は紙一重であることをみせてくれました。エピローグのすばらしさは筆舌つくしがたいほど。今年何本みられるかわかりませんが、ベスト候補の一つといえましょう。

 作品情報 2021年日本映画 監督:藤井道人 出演:綾野剛、舘ひろし、尾野真千子 上映時間:136分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:イオンシネマ茅ヶ崎 2020年劇場鑑賞4本



ブログ村のランキングです。よかったらポチッと押してください
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村


 【ストーリー】
 1999年、静岡県の地方都市で両親をなくした不良少年、山本賢治(綾野剛)は弟分の細野(市原隼人)、大原(二ノ宮隆太郎)と、街で覚せい剤の売人を襲い小遣い稼ぎをしていた。焼き肉店で居合わせた街の小さな暴力団柴咲組の組長柴咲博(舘ひろし)がチンピラに襲われたのを助けた賢治は、覚せい剤の元締めで柴咲と対立組織・侠葉会の幹部、川山(駿河太郎)に拉致されたのを、柴咲の知人ということで助けられる。そして、賢治は細野らと柴咲の子分になった。

 6年後、子供のいない柴咲は賢治を実の子供のように目をかけ、賢治も懐の広い柴咲を父親的存在としてみており、いっぱしのヤクザになっていた。しかし、街の再開発をめぐって侠葉会と抗争になり、卑怯なやりかたで柴咲が襲撃される。一方、女に奥手だった賢治は、ホステスのバイトをしていた女子大生工藤由香(尾野真千子)の強気だが純情なところにひかれていく。しかし、抗争は激化していく。

 2019年、賢治は出所したが、街のあまりのかわりように驚いた。暴対法のため柴咲組は解散寸前だったが、侠葉会は県警幹部の大迫(岩松了)と手を組み街を支配していた。由香も行方不明に。そんな賢治のもとに…

 【感想】
 暴力団は社会悪であり、壊滅するために暴対法や条例などで締め付けが起きています。これまでの所業を考えるとやむを得ない措置ですが、当事者にとっては耐えるのも大変です。暴力団をやめても5年間は暴力団員とみなされ、口座を作れなかったり家を借りれなかったりします。それでも半ぐれとつながったり、巨大組織や権力とつるんで生き延びる暴力団もあれば、時代の流れに取り残されて滅んでいくところもあります。

 柴咲組はまさに後者のほうでした。これまでのヤクザ映画の主人公にありそうな、義理人情で、麻薬はご法度。親分は懐が広くて、仲間たちも和気あいあいとする。映画の前半3分の1は、やんちゃだけで親もなく社会に排除された賢治たちが、柴咲組に流れ着き、そこで家族のような関係を結ぶところから始まります。

 これだけみると、義理人情の古い組と、あくどい新興暴力団という邦画によくあるパターン。しかし、第3部では敵対組織ではなく、社会や世間に負けて柴咲組が滅びていく哀れさがでています。しのぎはなくなり、麻薬禁止などいってられません。やることは夜中に海に忍び込んでの密漁。若手組員はほとんどいなくなり、残っているのは年寄りばかり。10数年でここまで落ちぶれるとは、驚きです。やんちゃなチンピラ、ぶいぶいいわせているヤクザ、そして出所後と3つの時代を画角もかえて、綾野のファッション、表情も違えることで、時代の流れを感じさせる演出はうまい。このへんは名コンビの今村圭佑カメラマン、編集の古川達馬との熟練の技ですね。工場の煙突と煙を意識させる選出は本当に渋い。

 出所したけど刑務所に入っていたため時代から取り残されていた賢治。何とか時代に追い付き、ささやかだけど家族や幸せを求めようとしますが、世の中そんなにうまく行きません。彼がほしかったのは金でも権力でもなく、家族だったということがなんとも悲しい。一度幸せは手に入ったのかにみえたのに、ちょっとしたことで転げ落ちてしまう怖さもなかなか考えさせられます。

 3つの時代を巧みに演じる綾野のうまさは、彼自身が集大成だといっただけあり見ごたえあり。舘ひろしも懐の広いところはいつもの感じですけど、老残の様子までしっかり出番があったので見直しました。このほか、脇に回った市原や、賢治の先輩ヤクザ役の北村有起哉など、雰囲気や表情で、この人たちはどういう人か見せるのはうまい。悪役の豊原や岩松のいやらしさもたまりません。そして、全体を見渡す焼肉屋の女主人、寺島しのぶの安定感。綾野と尾野の共演はカーネーションが有名ですが、個人的には芦田愛菜を児童虐待したMotherの別の世界線なのかと思いました。

 何より寺島の息子役の磯村勇斗と、尾野の娘役の小宮山莉渚の若手2人も印象的。それぞれどういう環境で育ったのかを想像させ、次の時代はどうなるのかいろいろと思わせてくれます。綾野や2人が登場する、主題歌のmillennium paradeの楽曲“FAMILIA”のMVが、本当に素晴らしい。映画をみたあとこのMVをリピートして、号泣しました。映画もMVもぜひみてもらいたい作品です。
posted by 映画好きパパ at 07:00 | Comment(0) | 2021年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。