【ストーリー】
イラク駐留米軍の爆発物処理班。爆弾はあちこちに隠されているほか、自爆テロも頻発し、命がけの作業が続く。
リーダーのトンプソン軍曹(ガイ・ピアース)が戦死して、後任にジェームズ軍曹(ジェレミー・レナー)が転任してきた。ジェームズ軍曹はすご腕だが、危険をものともせず、スタンドプレーが多いため、班の残りのメンバー、サンボーン軍曹(アンソニー・マッキー)とエルドリッジ技術兵(ブライアン・ジェラティ)は不安を隠せない。
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【感想】
冒頭、ドキュメンタリータッチの手ブレ映像で、爆破物処理の困難さを細かく映し出す。機械を使って爆弾の種類を確認し、処理班が防護服姿で接近し、解除をする。爆弾は道の片隅のゴミにまぎれて設置され、付近に大勢のやじ馬がいて、そのなかにはテロリストがまぎれて、処理班を殺そうと待ち受けているかもしれない。ギラギラとする中東の太陽と、むせるような砂ぼこりが画面いっぱいに広がる中、解体作業は行われていく。
イラクの最前線がどんな状況になっているのか、アメリカの観客にその大変さを伝えるには最適な作品だろう。戦闘シーンは、建物の爆破など大げさな場面ははぶいていることが、かえって、だれが敵か分からない現代の戦闘を表しており、リアルさを実感した。招かれざる米軍は、イラクの民衆からは、沈黙の敵意で迎えられる。なぜ、こんな異国で命がけの仕事をしなければならないのか。それは、この映画の冒頭の字幕で語られているように、ジェームズは、もはや戦地への適応しすぎてしまい、このような場所でしか生きられなくなってしまったのだろう。それは休暇で本国に戻ったときの家族とのかみあわない会話や、スーパーで大量の商品に囲まれたときの困惑した表情からよく分かる。
また、アメリカのプロパガンダ、イラク人のことが描けていないといった批判もあるが、戦争の無意味さというのは、アメリカ人視点からは十分描かれていた。現地人の少年と交流をもったための皮肉なてんまつ、地元の人からみると恐怖の対象でしかないアメリカ兵、といった場面がそこかしこに描かれている。
ただ、結局、最前線の爆破物処理班の苦労ぶりを描くことが中心になったため、アメリカの観客、批評家にも受け入れられたことはよく分かる。イラク戦争ものは、ことごとく興行・批評的に失敗していたが、それはアメリカが悪いと言うことを正面から据えている作品だったからで、そうした善悪の判断を省いたキャサリン・ビグロー監督の判断はオスカーを得るためには十分な賢さだったろうが、作品自体を歴史的な名作にはしていないと思う。
個人的には、イラク戦争ものではブライアン・デ・パルマ監督の「リダクテッド」のほうが、戦争の愚かさ、米兵のトラウマなどを真正面から見据えて、好み。また、最前線の兵士が休暇で故郷の家族の豊かさにとまどったり、戦場で少年と交流したゆえに皮肉なことが起きる、というのは「いのちの戦場」の方が印象的だった。採点は7.(TOHOシネマズ六本木ヒルズ)