難病少年モノなんだけど、お涙ちょうだいではなく、生きることのすばらしさ、人を愛することの大切さをきっちり描いている素晴らしい作品。見た後に感動と生きる希望を与えてくれます。
【ストーリー】
白血病で入院中の10歳の少年オスカー(アミール)は余命あとわずか。だが、母親(コンスタンス・ドレ)も看護士(アミラ・カサール)も腫れ物に触るような扱いで、だれも本当のことをオスカーに告げない。彼は自分が死ぬことを知っており、大人が嘘ばかりついていることに不信感を抱いていた。
12月20日、病院にピザ屋の女主人ローズ(ミシェル・ラロック)が配達にやってくる。オスカーが重病だと知らないローズは、オスカーにぽんぽん文句をいう。そのことからかえってオスカーの信頼を得てしまう。デュッセルドルフ医師(マックス・フォン・シドー)はローズに、オスカーの話し相手になるよう要請する。オスカーの余命がわずかと知ったローズは「これから大みそかまで、1日が10年にあたると考えて暮らしていこう」と提案する。
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【感想】
10代で恋をして、20代で結婚、30代で子供ができて、40代で夫婦の危機・・・と、健常者ならば当たり前の人生を、オスカーはわずかな期間で突っ走っていく。時間が短いからこそ、一つ一つの出来事の重みがみえてくるし、自分の10代、20代を振り返ってみると、1日しかなかったオスカーの20代のほうがはるかに充実している、というのは何とも皮肉に思えてならない。年をとると人生を楽しむにはセンスが必要」とオスカーはいうけれど、これからさきの人生の指針にしたくなるほど。
オスカーの両親は余命がないことをオスカーから隠そうとする。けれども、オスカーは、病気と向き合おうとしない両親を憶病者と、嫌ってしまう。わずか10歳の子供にとって両親を嫌うというのはどんなにつらいことなのだろう。しかも、DVをするとか、とんでもない両親ではなく、オスカーのことを本当に愛している両親を嫌いになってしまうのだから。象徴的なのは、オスカーのお気に入りのぬいぐるみがぼろぼろになったのをあわれんだ、両親が新しいぬいぐるみをプレゼントしたこと。両親にとってはオスカーが喜んでくれると思っていたのに、「古い傷ものを捨てて新しいものを買って喜ぶというのは、僕を捨てて新しい弟ができればいいこと?」とオスカーは傷ついてしまう。親子の関係の難しさも何ともいえずに悲しくなるけど、実際にもこうしたすれちがいは多いのだろうな。
けれども、物語はこうした深刻で実際の人生にも起こり得そうなすれちがい、心の傷といったものを描きながらも、ローズという力強い女性とオスカーの子供らしい想像力が救ってくれる。ミシェル・ゴンドリーの映画を彷彿とさせるフランス映画特有のキッチュな描写がたまらない。ローズは、自分が元プロレスラーだったといい、200キロもありそうなデブレスラーの試合や、臭い息でなにもかも吹き飛ばしてしまう凶悪なレスラーとの対戦などのホラ話をする。それがオスカーの空想のなかでは、現実のようにふくらみ、生きる手助けとなるのだ。
そのローズも、心に傷をもっているのか、最初は嫌々ボランティアをしているという設定もいい。何しろ、オスカーの相手をするかわりに病院がピザを大量購入してくれるからなのだ。慈善とか愛という言葉は大嫌い。そうしたローズがオスカーを励ますうちに、しらないうちに自分の心も癒やされているという設定も見事。病院の子供たちも、「アインシュタイン」は水頭症で普通の人の2倍も頭がふくれあがり、「ベーコン」は火傷で顔が焼きベーコンのようにこげている。いかにもかわいい子役ではなく、こうした、見た目は悪いけど、中身はどこにでもいそうな子供が登場する、というのがまたいい。
余命わずかな白血病患者は現実だったら隔離されてるはず、とか、ファンタジー的な設定はあるけれど、オスカーの言葉ではないけれども、映画を楽しむにもセンスが必要でしょう。センスというのもおこがましいけど、こういう心を豊かにするような映画を楽しめるだけで、自分自身のセンスには満足しています。疲れたとき、嫌なことがあったときには、この映画を思い出せば何とかなりそうな気がします。採点は8.5(TOHOシネマズシャンテ)
ちなみにエリック=エマニュエル・シュミット監督は原作と脚本も担当しています。また、音楽がミシェル・ルグラン、ローズの母親がミレーヌ・ドモンジョと、フランス映画界の巨匠が参加しているのもポイントかも。
2021年02月13日
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