【ストーリー】
赤穂浪士四十七士のうち、ただ一人助かった寺坂吉右衛門(佐藤浩市)。大石内蔵助(片岡仁左衛門)の密命を帯びて、浪士の遺族を助けるために死ぬことを許されず、内心忸怩たる思いをしながら、遺族を回っていた。
一方、討ち入りの前夜に逃亡した瀬尾孫左衛門(役所広司)も、大石から密命を帯びて、卑怯者の汚名を受けながらも生き延びていた。彼は大石の隠し子可音(桜庭ななみ)を育てられるように命ぜられていたのだ。やがて、二人は偶然相まみえることに・・・
【感想】
池上彰一郎の原作では、寺坂が主人公なのだけど、本作では瀬尾にスポットをあたえたことで、美しくも悲しい日本人の誇りというものを描き出している。特に、父親代わりとなって赤ん坊のころから育て上げた可音への忠義と父性の暖かさ、そして、いつかは離ればなれになる運命は、娘を持つ父親ならば、感涙なしにはみられないだろう。
ひっそりと山里で育てられ、両親を物心つかないうちになくした可音にとって、瀬尾は父でもあり、ほのかにあこがれる初恋の人でもある。一方、可音のために何もかも捨てた瀬尾は、もちろん、娘としかみれないわけで、やがて、可音を嫁入りさせようとするうちに、彼女の思いに気づいてしまう。でも、可音だって、瀬尾と別れなければならないことを知っている。互いの思いの交錯が何とも切ない。
さらに、瀬尾は武士である。しかも、武士の手本中の手本の赤穂浪士なのである。武士としてあるべき姿と人としてあるべき姿、それは真っ向から対立するもの。役所という日本を代表する役者が演じているだけあり、彼の姿は見ているこちらの心をもうつ。また、若手の桜庭ななみが、演技は決して上手とはいえないとはいえ、雰囲気がよく現れており、役所とうまくかみあっていたのは、うれしい誤算。
そして、本格的共演は初めてという佐藤−役所という豪華な組み合わせも見ていて楽しい。瀬尾と寺坂は親友だったが、それぞれ身分も、与えられた使命も違う。それが、同じ武士でも歩む道が異なっていく。人形浄瑠璃など、僕にはちょっとなじみがないものだったが、それや自然風景もふくめて、日本情緒、日本に生まれて良かったというものが感じられる作品。吉良役を福本清三がやっていたのは時代劇ファンとしてはクスリとしました。採点は8(TOHOシネマズ六本木)
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