【あらすじ】
NHKのプロデューサーだった筆者は1通の手紙を見て驚く。手紙には、原爆投下の直後、ラジオから美しく悲しげな助けを求める声が聞こえたが、そのアナウンサーは無事だったのか、という内容だった。しかし、広島放送局は爆心地のすぐそばにあり、原爆によって建物は壊滅、職員の多くが亡くなっており、放送を行うのは物理的に不可能だったのだ。
筆者はからくも生き残った職員から話を聞き取るが、だれも放送のことを否定する。しかし、ラジオの声を聞いた証言はほかにも出てきて、中にはラジオの声で救われたという被爆者も。幻のラジオの声は果たして・・・
【感想】
本は20年前に出版され、今では絶版状態。読みたいと思っていたところ、たまたま図書室にあったのを見つけた。番組は1970年代で、当時、証言された被爆者の方々も、今では次々と鬼籍に入っており、今では聞き取り調査は不可能になっている。それだけに、これを超える本は二度と出てこないだろう。
壊滅したはずのラジオ局から聞こえるラジオ。その謎解きに迫る課程は、ミステリーの謎解きをみるように読み手をひきつけるし、そこに至るまでの被爆者たちの悲痛な叫び、証言は戦争から60年以上たった今でも、読み手の心に響く。
さらに、この本は戦争と放送局の関係を突き詰めていく。軍部と一体となって戦争を遂行していった放送局。生き残った局員の一人は、原爆投下の際に空襲警報が出せなかったことを今でも後悔している。マスメディアの役割とは、そして、戦争の意味とは深く考えさせられる作品。
そして、余韻の残るラスト。並みの小説以上にドラマティックであり、人間の愚かさとすばらしさを感じさせる作品。こういう本が絶版になっているというのは悲しい。
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