2021年02月24日

ウェイヴ

 映画の出来は佳作クラスだけど、見終わったあと、今年一番考えさせられた作品。ドイツの昨年ナンバーワンヒットの映画ですが、東京では新宿だけの上映で、ちょっともったいなかったです。

 【ストーリー】
 高校の特別授業で独裁政治について教えることになった教師のベンガー(ユルゲン・フォーゲル)。だが、生徒たちは「ナチスなんて過去の話で、今どき独裁なんて起きるわけないじゃんwww」と授業を聴く気はまったくない。

 そこで、ベンガーは独裁とはどんなものか、体験してみようと生徒たちに提案する。まず、最初に自分のことを「ベンガーさま」と呼ぶように命じ、授業中に私語は禁止、発言は挙手のうえ立ってすることを義務づけた。最初はとまどっていた生徒たちだが、次第に授業に関心を示していく。それどころか、自分たちのクラスを「ウェイヴ」と名付け、次第に暴走していく。





ブログ村のランキングです。よかったらポチッと押してください
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村



 【感想】

 米国の高校で実際に起きた事件をベースにドイツで映画化されたわけだけど、見終わったあとに、いろいろ考えさせられ、数日たってもまとめきれない。まず、ベンガーの独裁の授業だけど、だれが独裁者になるかは、生徒の投票で決めるなど民主的に行われた。

 さらに、クラスはいいことづくめだ。今まで授業中に私語ばかりしていた生徒は熱心に授業を聴くようになるし、「団結」を目標に掲げているので、勉強が苦手な生徒を成績の良い生徒が教えたり、他のクラスの不良からいじめられていた生徒をみんなで守ってあげたりする。生徒たちはみんな仲良しになり、部活に勉強にと励んでいく。

 けれども、内部で団結するということは、外部に対しては敵対することであり、制服(といっても白シャツにジーンズ)を着ない生徒をみんなで無視したり、暴力的に脅すことすらでてくる。そして、それはほんの1週間で暴走して、刑事事件にすら発展する。地獄への道は善意で出来ているというけれども、だれかが強権的、恐怖政治で独裁をするのではなく、民主的にクラスを発展させながら独裁が起きるというのが、背筋をヒンヤリさせる。ナチスは選挙で選ばれた政権だし、戦前の日本でも、民衆もマスコミは軍部を熱狂的に支持しているのだ。

 そして、実はベンガーの授業で行われていることって、日本の学校ではごく普通に行われていることばかり。欧米では生徒の自由を尊重するばかり、規律が今ひとつということなんだろうけど、多くの人間は実は自由ばかりじゃ困り、規律でしばられたり、元気のいいリーダーについていくだけのほうが、はるかに楽なのだ。それで、その下地がある日本で、また独裁が起きないといえるだろうか。すでに宗教団体や政治団体、あるいは学校でも、独裁的なリーダーにより、狂ってしまった団体というのはでてきている。それが社会全体のうねりにならないとは言い切れるだろうか。「政権交代選挙」や「郵政選挙」が起きるのなら「独裁選挙」が起きても不思議ではないのでは。

 映画では授業がおかしいといって、みんなにいじめられる女生徒がでてくる。でも、彼女は単に白シャツが自分に合わないから着ていかなかったら、それでいじめがはじまっただけ。思想がどうのとか、大した理由もなく、自分たちと異なるものは排除してしまう論理が平然とまかりとおるのが恐ろしい。

 日本でも西村京太郎氏の小説に「盗まれた都市」という似たような設定の話があるのだけど、映画化しないかな。でも、ケータイ小説やテレビドラマばかり映画化するような現状では無理だろうな。採点は7.5(シネマート新宿)
posted by 映画好きパパ at 22:43 | Comment(0) | 2009年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。