2021年06月14日

猿楽町で会いましょう

 リアルな恋愛映画の中では最上級。若者の夢と現実の落差、人間の弱さと汚さがあますことなく描かれています。ストーリーテリングもうまいし、前半のラブストーリーが後半どんどん崩れていって、虚飾の町東京の恐ろしさが味わい深い。

 作品情報 2019年日本映画 監督:児山隆 出演:金子大地、石川瑠華、柳俊太郎 上映時間:121分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:イオンシネマ港北 2021年劇場鑑賞91本



 【ストーリー】
 売れないカメラマンの小山田修司(金子大地)は、読者モデルの田中ユカ(石川瑠華)の宣材用の写真を撮ることになる。渋谷のそばの猿楽町の路上で撮影した2人は意気投合。そのまま近くの小山田のアパートにいくことになる。

 どこか不思議で寂しそうなユカに惹かれていく小山田。ついにカメラマンとモデルの枠を超えて、付き合おうとするのだが…

 【感想】
 序盤は、何かになりたくても何者になれない若者2人が都会で出会って関係を深めていくという、ボーイ・ミーツ・ガールの物語。ちょっと抒情的だけど、まあこういう話ってよくあるよねという感じでみていました。

 ところが、中盤である仕掛けがあります。それでこれまで見ていた風景が一変します。ボーイ・ミーツ・ガールとガール・ミーツ・ボーイは、一見、同じようでも中身がまったく違う。これって、どんな人間関係でも起こりうることで、ある種の謎解きのようだけど、探偵ドラマとちがって謎が解けたらすべて解決ということがないのが現実の怖ろしさ。むしろ、謎は謎で放置していくのが人間関係の秘訣なのか、それともやはり謎はとことん解明しなければならないのか、正解がないだけに考えさせられます。

 小山田もユカもとにかく華やかな世界で成功をおさめたい。でも、普通の人はそんな世界で成功をおさめられないということがわかりません。そもそも、自分が何者であるかもよくわからない。オーディションでユカが聞かれるシーンがあるけれど、薄っぺらい就活用の自己分析ならともかく、本当に自分が何者か分かっている人はどのくらいいるのか。アラフィフの僕ですら、はっきり回答するのはむずかしい。

 特にユカが田中というありがちな苗字で、地方からでてきた都会の人間の怖ろしさをしらないという設定がいい。童顔の石川がそんな彼女の哀れさを体現しており、周囲からみれば迷惑なんだけど、でも彼女のことをほおっておけなくなります。白っぽい服を着ているのも、自分が何者か自分で決められない象徴的な絵でしょう。

 これに対して、都会でしぶとくいきていくユカと同じ芸能界志望の久子(小西桜子)は、何をどうすればいいのか割り切っています。さらに本人は意図していないにせよ、ユカや小山田を搾取、利用していく雑誌編集者の嵩村(前野健太)、いかにも都会にいそうなカタカナ職業の北村(柳俊太郎)といった存在が、余計にリアルな存在感をみせています。また、ユカのバイト先の古着屋やモデル仲間の何気ない、でも毒のある言葉や態度というのも、本当にリアルさを感じさせます。人間のドロドロした感情をさらりとスクリーンでみせる手腕は、児山隆監督のデビュー作というのは信じられないほど。


金子大地と石川瑠華は世間的にはまだ、無名ですが、若手でもいい役者がいるということがわかります。石川は「イソップの思うツボ」「恐怖人形」と変化球的な作品でみていましたが、この作品の体当たりの演技もすばらしい。また、金子は割と屑な二枚目役の印象があったので、本作の役柄は新鮮でした。2019年の渋谷を記録しているという意味でも、今見るのにふさわしく、胸をしめつけられました。
posted by 映画好きパパ at 06:16 | Comment(0) | 2021年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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