2021年08月31日

ドライブ・マイ・カー

 3時間もの長編ですが、最初から最後までひきつけられました。ただ、内容があまりにも濃密なので、見終わった後、頭の中で整理が必要に。岡田将生はいい役者になりましたね。

 作品情報 2021年日本映画 監督:濱口竜介 出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか  上映時間:179分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ川崎 2021年劇場鑑賞172本



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【ストーリー】
 演出家で舞台俳優の家福悠介(西島秀俊)は、脚本家の妻、音(霧島れいか)と静かに愛し合っていた。しかし、急遽帰宅した彼は、音の不倫現場を目撃してしまう。やがて、音に思いつめた顔で「話したいことがある」と言われたが、彼女は何も語らないうちに、くも膜下出血で帰らぬ人になってしまった。

 2年後、広島の演劇祭で演出を務めることになった悠介。運転しながら演出プランを寝る習慣だったが、事務所から事故防止のためにと女性運転手、渡利みさき(三浦透子)を付けられる。最初は不満だったが、物静かな彼女の運転に次第に慣れていく。一方、演劇祭のオーディションに、かつて音から紹介されたことがある人気俳優、高槻耕史(岡田将生)が参加した。悠介は、彼を主役に抜擢するのだが…

【感想】
 3時間あることをいかして、ストーリーは思わぬ方向にどんどん展開していきます。まず、序盤、音との静かだけどどこか不穏な生活。音の脚本の執筆方法は、悠介と寝た後にプロットを言って、起きたらそのプロットは忘れているというユニークなもの。一方、悠介の演出も演劇の名作を外国人の俳優を使ったら、言語は互いに母国語をしゃべらせるというものです。

 最初は、村上春樹原作らしく、こじゃれた文化人の不倫話と思っていたのですが、場面が広島に映ってから不穏さが倍増しました。このへんは濱口監督のオリジナルだそうで、カンヌの脚本賞受賞も納得の出来です。広島での演劇はチェーホフの名作「ワーニャおじさん」ですが、俳優は日本だけでなく、中国、韓国、フィリピンなどアジア各国から参加します。それぞれが母国語でセリフをしゃべる。なかには口が聞けない発声障害の俳優もいます。

 このオーディションや舞台稽古風景が何とも印象的。言葉が伝わらなくてもコミュニケーションはできるのか、いや言葉が伝わらないからこそ、新しい何かが生まれるのかということを突きつけられていきます。みさきが寡黙だというのも加わり、人間関係の基本は言葉だけど、その不在は何を意味するのか考えさせられます。

 中でも、高槻が本当に不穏。岡田はこれまでもふり幅の広い役柄を演じてきましたけど、本作の彼は本当に怖かった。中でもみさきの運転する車の中で、悠介と音についての思いを話し合う場面は、セリフだけきいていれば男と女の愛についてかたっているのに、車の中という閉鎖空間のなかで、いかにも純情そうな表情もあいまり、この人、何言ってるんだろうと生理的な恐怖がこみ上げてきます。言葉と仕草、表情の乖離。言葉で伝えられないことなど頭の中をぐるぐる回ります。

 さらに、物語は予想外の方向にいくのですが、クライマックスといえるシーンで、饒舌とばかり説明調のセリフが多かったのもちょっと意外でした。それまで、観客に想像させつづけてきたのに、え、そこまで丁寧にセリフにしちゃうのというのが、逆に予定調和のシーンになりそうなのに予定調和をこわしているみたいで見事だった。ラストのエピソードもいろいろ考えさせられます。本来、韓国を舞台にするはずだったのが、コロナ禍でできなかったということもあるのでしょうが、いったいどういう意味をこめたのか。

 西島、霧島の安定した演技に加え、岡田のすさまじい雰囲気、そして、ある意味納得できる三浦のエピソード。主役陣は申し分のないうえ、アジアから集まった俳優たちが、これまたすごい良い雰囲気を出しています。また、予告編にある夜の高速道路のシーンとか、本当に美しい。まあ、スタッドレスはどうしたのだろうとの内心の突っ込みもありましたが。

 演出、衣装、撮影も含めて、今年みたなかでもっとも上質な作品。でもそれゆえに、すごいなあという思い以上のものがなかなかでなかった。僕はわりと分かりやすく感動する作品が好みなので、とにかく、咀嚼するのに時間がかかる作品でした。濱口監督の「寝ても覚めても」は初見であまり評価しなかったのだけど、本作をみて改めて、過去のフィルモグラフィーをみてみたいと思いました。5時間の超大作、ハッピーアワーをもう一度劇場でやらないかなあ。
posted by 映画好きパパ at 06:01 | Comment(2) | 2021年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
年明け2022年になってからやっと鑑賞しました。
一言、素晴らしい脚本でした。
村上春樹の原作短編はもっとシンプルで良くも悪くも曖昧。
亡妻の不倫にわだかまりを持つ男の愚痴っぽい話です。
それにオーディションを受けた役者個々を掘り下げたり、
女性ドライバーの過去エピソードを足して
長尺でもダレない内容に仕上げています。
カンヌで脚本賞を獲ったのも頷ける内容でしたね!
Posted by 西京極 紫 at 2022年01月15日 10:17
コメントありがとうございます。
濱口監督の個性が良く出ていました。
西島、三浦、岡田と日本の俳優陣に韓国俳優らも好演でした
アカデミー賞でも受賞するのではと楽しみです。
Posted by 映画好きパパ at 2022年01月15日 18:28
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