作品情報 2020年日本映画 監督:吉野竜平 出演:佐久間由衣、奈緒、笠松将 上映時間:118分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:テアトル新宿 2021年劇場鑑賞203本
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【ストーリー】
大学4年の堀貝佐世(佐久間由衣)は児童福祉司の資格を取り、故郷の市役所から内定を得て、卒業までだらだらとした日々を送っていた。卒論のためにアンケートを集めていたところ、一つ下の猪乃木楠子(奈緒)と知り合い、なんとなく友人になっていく。
ゼミのコンパで同級生の穂峰直(笠松将)と出会ったり、バイト先の酒造メーカーで後輩の安田貴一(葵揚)を鍛えたりと、一見、充実した日々を送っているが、内面では自分が他人と違って欠落した部分があるとのコンプレックスに悩んでいた。そんなある日…
【感想】
序盤は、自分にコンプレックスを抱きつつ、無理に笑顔を作っていて周囲に合わせようとするホリガイと、しっかりと自分を持っているけど人を寄せ付けない雰囲気のあるイノギの出会いや日々を通じて、今風(といってもコロナ前ですが)の大学生の日常が描かれています。
人のことが本質的に理解できないし、処女であることがコンプレックスのホリガイは、人と向き合わなければならない児童福祉司になっていいのか悩んでいます。一見、処女であることも「ポチョムキン」というおしゃれっぽい名前を付けて口外するなど明るく振る舞いますが、みていて痛々しい感じ。そういった青春の悩みが、特に就職直前に悶々とさせるのはリアルさを感じさせます。
また、彼女だけでなく、ちゃらんぽらんで能天気そうな安田やホリガイの親友で飄々と物事をこなす吉崎壮馬(小日向星一)、そしてなによりイノギもそれぞれ悩みを抱えています。外からぱっと見ただけでは分からないけれど、その人を深くしることで理解、共感でき、それが自分の成長につながっていく。序盤とラストのホリガイの表情、行動をみると、いろいろ大変だったけど彼女にとって無くてはならない時間だったことが実感されます。
僕自身、自分に欠落したものがあるとコンプレックスがあるだけに、ホリガイの悩みが痛いほど伝わってきます。そして、大切な人たちと出会うことでそこから抜け出せそうな彼女が本当にうらやましい。こうした悩みって青春期特有に見えますが、大人になって自分の人生を振り返る時期になっても、やはり考え込んでしまうのですよね。まさに僕自身の心に打ち込まれるような作品でした。
一方、ストーリーは中盤から予想もつかない方向に変わっていきます。正直、観ていて声が出そうなぐらい驚いた場面もありました。ホラーとかでなくても、人間の闇が普通の生活のそばに転がっていることは十分描けるのですね。突き詰めていけば性、生と死といった人間の根源にまで及ぶテーマで、津村記久子の原作は未読ですが、骨格がしっかりしているので映画の脚本も本格的なテーマにしっかり取り組めたのでしょう。
佐久間は赤い髪型も自ら提案したそうで、ちょっと間違えばういてしまう役柄を見事に等身大に演じており、演技力の幅をみせてくれました。奈緒は「マイ・ダディ」「先生、私の隣に座っていただけませんか?」と立て続けに出演作が出ていますが、それぞれ違ったキャラクターを難なくこなしています。ただ、これだけ、変わった役柄が多いので、いつかは普通の恋愛ドラマの主演でみてみたいかも。小日向、葵、笠松、森田想といった、知名度はないけれど演技派の若手をそろえたところも見ごたえがあります。そして、おいしいところをもっていったのは案の定宇野祥平で、彼がしっかりと配役されている映画って外れがないんですよねえ。
吉野作品は初見でしたが、粗削りなのに微妙なひだをすくう演出が若い出演者にもあっており、ほかの作品をみたくなりました。映画に合わせて作った小谷美紗子の主題歌「眠れない」の歌詞もなかなか考えさせられました。
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