作品情報 2021年日本映画ドキュメンタリー 監督:森ガキ侑大 出演:有村架純、志尊淳 上映時間:97分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:シネマジャック&ベティ 2021年劇場鑑賞220本
【ストーリー、感想】
看護学生、保育士、老人ホーム職員、農家といったエッセンシャルワーカーから、失業して性風俗店で働きだしたシングルマザー、何も支援がないホームレスといった弱者まで数多くの人にインタビューしていきます。さらに、職が見つからずシャアハウスで暮らす若者たち、先行きを不安がる児童養護施設の子供たちなども登場。僕自身知らなかった、それぞれの現場での困惑、それでも仕事をしていく思いといったものがどんどん語られていき、思わず涙が出てしまいました。
特に風俗嬢やホームレスといった世間からは日陰者の人たちがいったいどんな風な思いでいるのか。あるいは、コロナ感染拡大は若い世代のせいにされたこともありましたが、実はしっかり考えていることがわかる。あえてまとめようとしないインタビューに、見る側が本音を探っていくような責任を感じます。普段、自分の過ごしている世界では見えない人たちがこんなにもいるのかというのは、ただただ驚きです。そして、コロナで突然転落したというよりも、コロナ以前からの見えない断絶が顕在化したケースも結構あるというのは、納得でもあるし、なかなか得られない知見でもありました。
終盤はこの取材を通じて、有村、志尊が俳優という仕事について考えます。映画では直接触れていませんが、このころ有名俳優の自殺が相次ぎ、役者は不要不急ではないのかといわれていました。そんな中、2人はどのように自分の思いをまとめたのか。丁寧にきれいな言葉でまとめておらず、自分たちの思いをとにかくぶつけたような、一見すると論旨不明な部分も含めて、真剣に考えていることが分かります。コロナ禍の日本を見事に切り取っているとともに、2人の成長劇でもあります。
2人とも、人気俳優にもかかわらず、相手の話をきちんと聞いて咀嚼する。受けの仕事が実にうまい。志尊淳は今年に入り急性心筋炎で入院し、復帰が心配されましたが、カメラはそこまできちんと追い続けているのも見ごたえがあります。
エッセンシャルワーカーたちへのインタビューは、もったいないと思えるほどそれぞれの時間は短いですが、それでスピード感があり、いっきに引き込まれました。えっ、こんの仕事をしている人はこんな思いを持っているんだという気付せてくれるのには成功しているわけで、妙に深くうまく作りこんだり、イデオロギーが先行したりするよりも現代風だと思います。働くこと、生きることをかんがえさせられる傑作ドキュメンタリーです。
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