作品情報 2021年フランス、ドイツ、ベルギー、イタリア、日本映画 監督:アルチュール・アラリ 出演:遠藤雄弥、津田寛治、イッセー尾形 上映時間:174分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい 2021年劇場鑑賞226本
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【ストーリー】
1944年、陸軍中野学校で教育を受けた小野田寛郎少尉(遠藤雄弥)は極秘任務を帯びてフィリピン・ルバング島に派遣される。それは米軍が上陸したときにゲリラ戦を指揮するというもの。教官の谷口(イッセー尾形)からは玉砕は禁じられ、とにかく生き延びて戦うよう命じられた。
やがて、米軍の攻撃が始まり味方はちりじりになる。小野田は部下の小塚(松浦祐也)、シマダ(カトウシンスケ)、赤津(井之脇海)とジャングルに隠れ続けた。やがて部下は一人減り、二人減り、とうとう小野田は一人になり、1974年まで戦い続けることになる。
【感想】
戦争の悲劇ということもありますが、一人の人間の尊厳というものをどうとらえるか、迫ってくる作品でした。終戦後も戦い続ける小野田に、終戦から数年後、日本政府は小野田の父(諏訪敦彦)ら親族に協力してもらい、投降をよびかけます。しかし、小野田は米政府の陰謀だと信じて戦いを続けました。
中野学校というスパイ養成所で明敏な頭脳を持っていた小野田がなぜ日本の敗戦を信じられなかったのか。それは、もし信じたらこれまでの日々や失った戦友に取り返しのつかないことになると思ったからでしょう。そこからさらに20年以上も一人だけの戦いをすることになるともしらずに、彼は投降を拒否します。そのために必死になって理屈を考え出す小野田の姿は人間の愚かさ、寂しさに何ともいえなくなります。
一方、ルバング島の人にとっては悪夢のようなものでした。映画では無差別に島民を殺害するようなことはしていませんが、資料によると30人近い犠牲者が島民から出ています。小野田の意地のために、島民が殺されるシーンはあえていれなかったのでしょうけど、これは監督になぜこういう選択をしたのか聞いてみたい。あくまで、究極の選択を強いられた一人の男の孤独を描きたかったのかもしれません。
大半の時間はジャングル内での小野田の様子なのに飽きさせないというのは、部下たちとの妙にホモセクシャルすら感じる濃密な時間をきっちり描いているからでしょう。さらに、1974年にルバング島で小野田を発見して、帰国の端緒となる冒険家の若者鈴木(仲野太賀)との出会いと友情も、短時間の出会いにもかかわらず濃厚な人間関係をみせつけます。コロナ禍で人と濃厚になれないことが多い中、こういう昭和の密接な人間関係はあこがれを呼ぶのかもしれません。
4カ月のカンボジアロケでジャングルの逃亡生活も体現。青年期の小野田役の遠藤から、壮年期役の津田寛治へのバトンタッチもスムーズで、こういうドライなでも飽きさせない演出手法は、フランス映画っぽい平常的な描写と、日本独特のねっとりと心情が奇跡的にマリアージュしたといえるかもしれません。イッセー独特の存在感も見事で、長時間で戦争だからといって敬遠するのはもったいない力作です。
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