作品情報 2019年ルーマニア、 ルクセンブルク 、ドイツ 映画 監督:アレクサンダー・ナナウ 上映時間:109分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:シアターイメージフォーラム 2021年劇場鑑賞229本
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【ストーリー、感想】(ネタばれあり)
2015年、ルーマニアのライブハウス「コレクティブ」で火災が発生。27人の若者が死亡する惨事が起きます。そのうえ、入院中の重症患者が次々と亡くなっていった。地元紙が、製薬会社が粗悪な消毒液を病院に売りつけたため、院内感染が発生したとスクープ。
ところが、保健省は検査データを改ざんし、この事実を否定。新聞社は薬品メーカーが粗悪品を売りつけた利益を裏金化し、政界や病院幹部に賄賂を送っていたと追撃のスクープ。保健大臣は辞任に追い込まれます。
後任の保健大臣は疑惑と関係ない人をと、患者のためのNPO活動をしていた若手銀行家が就任します。彼は一薬品メーカーの問題でないとみて、腐敗しきった医療制度の改革に乗り出します。これに対して守旧派の政治家、官僚、医療関係者が一斉に反発。さらに守旧派メディアも、「無用な規制で医療現場は混乱している」「外資に医療を売り渡そうとしている」などと誹謗中傷。次の選挙は若者を中心に低投票率だったため、守旧派が圧勝。彼は保健大臣を首になってしまいます。
この映画の特筆すべき点は、新聞社と改革派の保健大臣の協力で、普通なら外部からは見られないところまでカメラが入っていること。新聞社の取材の裏側や、政策決定の際の赤裸々な議論が行われていてもカメラはそのまま回っています。政治関係のドキュメンタリーは何本もみていますが、こんな作品は見たことがありません。
BGMもナレーションも、インタビューもなく、事実をそのまま提示するタイプのドキュメンタリーです。それだけに、それぞれの登場人物の表情、感情などがストレートに観客に伝わってきます。そして、ラストは墓参りした遺族にカメラが寄り添います。その時の車で流れた、亡くなった青年が好きだったという曲の歌詞は何とも言えません。
悪いことする人って良心はないのかと思います。でも、目先の自分の金のために、見たことのない他人が死のうとどうってことがない想像力が欠如しているわけでしょう。ナチスの強制収容所の看守何かは典型ですが、会社のため、組織のために平然と悪いことをする人は日本にもたくさんいます。
それでも正義を守ろうとする人たちには胸があつくなりました。新聞記者は家族に危険が及ぶと脅迫されますが、「メディアが権力に屈したら、権力は国民を虐待する」と正義を貫こうとします。日本にこういうジャーナリストがいるでしょうか。パンフレットに東京新聞の有名女性記者が文書を書いていましたが、こんなところに文書を書いてる暇があったら、権力者を辞任に追い込むスクープを一本でも書いてみろといいたい。もっとも日本の腐敗度合いは、多くの国よりもはるかにマシだとは思いますが。
国が嘘をついて、守旧派の利権を守ろうとする。それに一部メディアが加担して、国民の大多数は嘘を鵜呑みにするか、政治に無関心で投票にもいかない。似たようなことはアメリカ、イギリスをはじめ世界中で起きています。日本もまもなく選挙ですが果たして投票率はどうなるでしょうね。
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