作品情報 2021年日本映画ドキュメンタリー 監督:青柳拓 上映時間:93分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:シネマ・ジャック&ベティ 2021年劇場鑑賞249本
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【ストーリー、感想】
映画監督になる夢では食えず、故郷の山梨県で運転代行をしていた26歳の青柳青年。しかし、コロナで運転代行の仕事はなくなり、利子も含めて700万円もの奨学金返済をしなければならないので、東京に出稼ぎに行こうと決意します。でも、昨年4月の緊急事態宣言のまっただなか。ウーバーイーツの配達員しかみつかりません。当時、県境をまたぐ移動の自粛がいわれ、東京に行ったらコロナになると家族に反対されるものの、8000円とおばあちゃんの手製のマスクをもって、自転車で東京へ向かいます。
さっそく配達員となったのですが、仕事は大変で1日働いても3000円しかならないこともしばしば。最低賃金を大きく下回っていますが、配達員は個人事業主扱いなので合法なんですよね。ケン・ローチ監督が「家族を想うとき」で批判したことが、日本の現実となっています。それでも1万円を超えたときはうれしいわけで、一定期間内に大量の件数を請け負うクエストにはまっていきます。
緊急事態宣言で人影の少ない東京を、自転車に括り付けたスマホのカメラで追う姿はなんともシュール。貧しい配達員が必死になって届ける先が高級タワーマンションで、住人は置き配で感謝もしないのですから、格差は極まりけり。しかも自転車もバッグも自腹、事故にあったら自己責任で労災もおりないのですから、まさに踏んだり蹴ったりです。
それでも、青柳監督はいつもニコニコしており、次々にする失敗は見ていて笑えます。でも、これって貧困層に選択肢はなく、運命を受け入れることしかない諦観からきているのですよね。まさにチャプリンの「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見ると喜劇だ」を地でいっています。炭坑節のメロディーで「こげや、こげこげ、チャリをこげ〜」と流れる主題歌も耳にこびりつきます。ラストは賛否わかれるでしょうけど、なんとも強烈な作品でした
唯一の救いは家族や友人がみんないい人ばかりだったこと。知性もあり、友人や家族との関係もうまくいき、体力もある26歳の青年が、たまたまコロナにまきこまれたために貧困に陥るのは本当にリアル。誕生日のシーンなどは、本人がにこにこしているから笑い話に見えるけど、こんなに他人にやさしい人が理不尽な目にあうのは明らかに社会に問題があることがわかります。それでも、見ず知らずのおっちゃんやおばあさんとにこにこ話ができるなんて、むしろカネがあって孤独なのよりもはるかに人間らしい
今も配達員を続けて、高収入を得るコツ(配達員には月収40万円を超えるひともいるそう)
をつかんだそうですが、青柳監督はそれで終わるのでなく、ぜひとも社会派ドキュメンタリーを取り続けてもらいたいものです。
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