2022年04月24日

昭和元禄落語心中

架空の落語家、有楽亭八雲を主人公とした大河ドラマ。戦前から現在までの落語界の変容を背景に、芸の厳しさ、男女や家族の愛、才能や運命の残酷さを徹底的に描いており、ミステリー仕立てのところもあります。2010年代のベストドラマといえましょう。

 作品情報 2018年NHKドラマ 演出:タナダユキ他 出演:岡田将生、山崎育三郎、大政絢  全10回 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:NHKオンデマンド



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【ストーリー】
 落語が漫才などに押されて人気を落としていた昭和50年代。元チンピラの与太郎(竜星涼)は刑務所に慰問に来た名人、有楽亭八雲(岡田将生)の落語に心を打たれ弟子入りを志願する。天涯孤独で芸に厳しい八雲は弟子をとらないことで有名だったが、なぜか与太郎の弟子入りを認める。

 八雲の家には、彼が親代わりとなって面倒を見ている小夏(成海璃子)がいた。彼女は八雲の兄弟子で、天才といわれながら夭折した有楽亭助六(山崎育三郎)と妻のみよ吉(大政絢)の忘れ形見。だが、小夏は八雲に対して「お前が父ちゃんを殺した」と逆上する。若かりし頃の八雲、助六、みよ吉には切っても切れない因縁があり…

 【感想】
 昭和50年代のエピソードでスタートしたあと、戦前のまだ幼いうちに先代八雲(平田満)に入門した八雲(当時は菊比古)と助六(当時は初太郎)の成長期のエピソードとなり、そのあと、八雲の晩年、さらに次世代である与太郎の活躍と昭和から平成までを描いています。落語が庶民の娯楽の中心だった時代から、戦時中の弾圧、戦後、テレビの登場で伝統か変革か迫られる様子、そして現代まで。

 岡田は20代から70代までを一人で演じました。初回、60代の八雲を特殊メイクで演じたときには、ちょっと違和感を感じてしまいなんでベテラン俳優を使わないかと思いましたが、若いころの場面がうつり、再び、60代の八雲にもどったときは違和感どころか、得も言われぬ上品さと色気にゾクゾクします。特に、終盤、みよ吉とのシーンは、映画も含めて今まで見てきた作品のなかでも、最も美しい場面だったといえましょう。まさにこの世のものともいえない美しさです。

 与太郎が八雲の弟子入りする序盤も痛快ですが、なんといっても、若かりし頃の3人の葛藤が素晴らしい。真面目だが陰気な八雲と天才だが借金まみれで女遊びも激しい破天荒な助六。互いに相手を無二の親友かつ最大のライバルとみなしていました。そして、複雑な環境の芸者みよ吉が現れたことで、3人の運命は大きく変わっていきます。

 一方、助六とみよ吉が亡くなったことが心の傷となっている八雲。老熟した八雲の落語への向き合い方が凛としており、この厳しさ修烈さがとにかく美しい。一方で、自分には決してできなかった助六のような破天荒な落語、生き方への渇望、みよ吉を失ったことで生涯独身と決めた寂しさなどが複層的にあらわれます。親代わりに育てた小夏も自分へ敵意を向け、一方で小夏は名落語家としての八雲の腕は尊敬しており、これまた複雑な愛憎模様となります。そこへすっとんきょうだけど、どこまでもまっすぐな与太郎が入ることで、化学変化が起きていく構成はお見事です。

 僕は落語自体に詳しくないのですが「死神」「芝濱」「寿限無」など数多くの落語がでてきます。落語ファンからは岡田の噺に厳しい意見もでていますが、僕から見れば、特に終盤の演技は本当にすごい。まさに人生を落語にささげたものたちの生きざまが伝わってきます。

 もともとは漫画原作で、アニメ化もされています。アニメ版は石田彰、山寺宏一、林原めぐみと日本を代表する声優が出演し、落語もダイジェストだったドラマ版と違ってしっかり流します。特に終盤はドラマ版との違いもでているので、お時間があれば両方見比べてみることもお勧めします。両方とも大傑作です。 
posted by 映画好きパパ at 06:09 | Comment(0) | テレビドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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