作品情報 2020年ロシア映画 監督:ダニーラ・コズロフスキー 出演:ダニーラ・コズロフスキー、オクサナ・アキンシナ、フィリップ・アヴデーエフ 上映時間:136分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:新宿ピカデリー 2022年劇場鑑賞124本
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【ストーリー】
1986年、チェルノブイリ原発があるプリピャチ市の消防士アレクセイ(ダニーラ・コズロフスキー)は偶然、10年前に別れたオリガ(オクサナ・アキンシナ)と再会する。実は自分の息子アリョーシャ(ピョートル・テレシチェンコ)が産まれており、ひそかに育てていたことを知り愕然とするアレクセイは3人でキエフに引っ越して暮らすことを提案するが、彼のいい加減な性格や、町での暮らしがあることからオリガはふんぎりがつかない。
キエフに転勤することを決めたアレクセイは、原発が爆発したことを知り急いで現地に向かう。だが、先に到着した同僚たちは次々に被ばくして死亡。アレクセイも病院に運ばれるが何とか軽症で済む。原発の地下にたまった汚染水を排水しなければ水蒸気爆発が発生し、壊滅的な被害になることが判明。対策委員会は決死隊を送ることを決定し、原発内の地形を熟知しているアレクセイに参加を要請する。いったんは断ったアレクセイだが、息子に被ばくの症状が出たため、治療を条件に参加するのだが…
【感想】
予想していた以上に、序盤のアレクセイとオリガのロマンスがだらだらと続きます。日本の感覚からすると、なぜ2人がくっつくの別れるだのの話をこんなにひっぱるのかテンポを完全に悪くしています。ただ、製作陣は1人の人間からみた原発事故をとりたかったので、あえてこういうふうにしたのでしょう。
それが、原発事故が発生した後は一変して、一級品のディザスタームービーになります。現地に急行するアレクセイの車に空から何かがどんどんぶつかってきます。みると鳥が被ばくして死んでいるのでした。その不気味さはホラー映画が現実のものになったとしか思えず、原発事故の怖ろしさがストレートに伝わってきます。
さらに、現場にかけつけた消防隊は防護服などいっさいなし。通常の消防服で活動するため次々と倒れていきます。爆発して炎上するCGと、被ばくして火傷をおって倒れていく消防士たちの姿で画面にひきずりこまれます。政府が絶対に正しい旧ソ連では原発事故の想定がなく、消防士たちも事故の怖さが伝えられていなかったわけです。原発事故の映画では「Fukushima 50」がありますが、防護服に守られた彼らですら命がけだったのに、チェルノブイリでは通常の服装なわけですから、人命の軽さがわかります。さらに、プリピャチでは情報統制で日常と変わらない生活が行われており、被害が拡大しているのをみると、人命軽視は伝統なのでしょうか。
アレクセイの決死隊の作業はなかなかスムーズに進まないうえ、よくわからないことが多い。それでも、決死隊ですらろくな整備のない当時のソ連の状況や、上司の命令で無茶ぶりされる独裁国家の官僚組織の怖さは伝わります。オリガやアリョーシャとの関係も描くために、泥臭い作品になりましたがそれもロシアっぽさか。ちなみに今回のロシアによる侵略で、ロシア軍がチェルノブイリ原発に陣を取って被ばくしたというニュースがあり、40年近くたったいまでも被害がある原発事故の怖さが実感されました。
現場の英雄のヒロイズムで、原因の究明や政府の不十分な対応など俯瞰的な観点を描かず放置しているため、批評家からの評判はよくありません。けれども、大災害が起きたときに人間はどういう行動をとるべきか考えさせられ、個人的には気に入った作品です。なお、ロシア映画ですが舞台がウクライナということもあり、日本の収益の一部はウクライナに寄付されます。コズロフスキーもウクライナ戦争に反対を表明しているそうです。
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