2022年06月14日

息子の面影

 今年1番の鬱映画。メキシコの田舎の状況なんて知らなかったのですが、現実もこうだとすればアメリカに不法移民が押し寄せるのも分かります。日本に産まれてよかった。

 作品情報 2020年メキシコ映画 監督:フェルナンダ・バラデス 出演:メルセデス・エルナンデス、ダビド・イジェスカス、フアン・ヘスス・バレラ  上映時間:99分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町  2022年劇場鑑賞137本



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 【ストーリー】
 メキシコの貧しい村に暮らすマグダレーナ(メルセデス・エルナンデス)。生活は厳しく息子のヘスス(フアン・ヘスス・ヴァレラ)はアメリカに不法入国して稼ごうと家から出るが消息は途絶える。

 2週間後、警察にいったマグダレーナは、ヘススとともにアメリカに向かった友人の焼死体の写真とヘススの鞄を見せられ、状況からヘススも死んでいるのではといわれる。息子の無事を信じているマグダレーナは手掛かりを探そうと町をさまよう。そこで、アメリカから不法入国で追放された少年ミゲル(デビッド・イレスカス)に助けられる。彼は行方不明の母を探していた。ヘススの面影をミゲルに見出したマグダレーナは協力して行方不明の家族を探そうとするのだが…

 【感想】
 厳しいメキシコの荒野、美しい星空や水面などを見せつつ、マグダレーナが真相を求めて彷徨する物語。自然部分は本当に乾いて冴えわたるような撮影をしている一方、マグダレーナがあちこちで話を聞く相手の姿はまともに映さないという独自の演出をしています。美しい自然と違って人間はそんな価値もないということでしょうか。じっくり描いているし長回しが多いので、最初のほうは気が散っていたのですがどんどん画面に引き込まれていきます。

 実際、メキシコの状況はすさまじく、ヘススたちが乗ったバスが武装ギャングに襲われたのですが、バス会社はそうした事実を一切公表せず、警察もろくに捜査しません。さらに、村が丸ごと襲撃されたりして、北斗の拳の世界みたいな荒廃した感じが何とも重たい。そんななか、命の危険をかえりみず、息子の安否を探し回る母の姿は偉大だし、切ない。

 一方、ミゲルのほうは数年ぶりに帰宅した家が無人で母親の行方が分からず、近所の知人も口を閉ざす。恐らく武装ギャングに襲われたのと思われますが、母に連絡をとらなかったことを激しく後悔する。この肉親を探すことで共通している2人が疑似親子のようになっていくのは、弱いものが生き残る知恵なんでしょうか。圧倒的な暴力のまえに、庶民は絶対にかなわないというのが、それこそウクライナやシリアを始め世界中で起きているわけで、こちらをどんよりさせます。

 また、マグダレーナがようやく見つけたバス襲撃事件の証人は原住民のため?スペイン語をしゃべれませんでした。彼の証言のときは字幕がつかず、マグダレーナ同様、何が起きたのか分からないけど現場の雰囲気を頭の中で再現しなければならないという演出もクールでした。

 とにかくひたすら疲れた表情のマグダレーナとミゲル。国境の向こう側ではたとえ貧乏のままでもここまで命の危険にさらされることはないわけです。それゆえに国境の壁の絶望感が、遠い日本の僕にでも伝わってきます。とにかく重たくやるせない作品でした。後から知ったのですが、ヘススとはイエス(ジーザス)という意味だというのがまたすごい。

posted by 映画好きパパ at 06:01 | Comment(0) | 2022年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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