作品情報 2022年日本映画 監督:大野大輔 出演:早織、大野大輔、加藤玲奈 上映時間:111分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:新宿K’Sシネマ 2022年劇場鑑賞144本
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【ストーリー】
30歳すぎても売れないミュージシャンの信太(大野大輔)は、対バンライブで相方のギタリスト直也(小竹原晋)にすっぽかされ、困っていたところを次の出番の月見ゆべし(早織)にヘルプでギターを演奏してもらう。同じく売れていないが、ゆべしの歌声に惹きつけられた信太。
2年後、自分の歌をあきらめて、ゆべしのマネージャーとなった信太。だが、メジャーに進出させたい信太と自分のスタイルを曲げないゆべしは衝突ばかり。やがて2人は…
【感想】
青春は何歳までなんでしょう。よく芸術家は30歳までに売れなければダメだといわれますが その30歳を超えてしまった信太とゆべしは、夢を追い求めたまま年を重ねることの残酷さを映し出しています。2人の実家が太ければともかく、普段はバイトをしながらのライブでは貧すれば鈍するという言葉も思い出してしまいます。
最初はアーティストとしての尊敬、共鳴が徐々に男女の仲に深まっていくという恋愛パートを、それほどはっきり映し出さない演出も抑制がきいていて大人っぽい。よく青春音楽映画では惚れたはれたが前面にでるのだけど、そういった凡百の作品とは違った、大人の渋さを感じさせます。もっとも30過ぎても精神的には大人になりきったとはとてもいえないのも現代っぽいですが。
才能だけでは食っていけないこの世界。僕も映画やライブですごい才能だなと感心した人が全然売れないまま消えていく経験を何度もしました。特に信太とちがってゆべしは才能があるのに、くすぶったまま。かつて金持ちだったけど畑違いの芸能プロを始めて今は貧乏にあえぐ老社長(堀田真三)、こんなことがと思えるほど些細なことがきっかけで音楽をあきらめた直也など、周囲で夢に敗れた人たちへの視点も暖かいですが、同日に現実の厳しさを教えてくれます。
中盤まではしっとりとした敗者へのあたたかな目線とシビアな現実を両立させ、貧しいからこそ笑うしかないユーモアもうまいなと思っていたのですが、中盤過ぎて、スタジオミュージシャンの一里塚(濱正吾)との絡みでちょっと違和感を覚えます。そして、クライマックスの壊し方。みじめさが叫んでいるようなシチュエーションですけど、それもまた歪んだ音楽と相手への愛であり、作り手としての怨嗟なんでしょう。このなんでも詰め込んだものを突きつけてこられるのは、どきっとしましたし、ここまでの繊細な名作をガラガラポンしちゃうのはもったいない気もしました。まあ、自分の中で消化しきれていないのですけど。
早織はドラマ「ケータイ刑事」シリーズの主役になりましたが、このシリーズで宮崎あおいや堀北真希がメジャーになったのに比べると、ぱっとしない印象。そういった情念があるのか、エキセントリックな天才という役柄にぴったり。さらに、今時ニューミュージックと思わせつつも、情感のこもった暗い歌声は心に焼き付きます。監督、脚本と実質的な主演の大野は受けに回っているところがありますが、最後にしっかり見せ場をつくってます。脇役ではアイドル役というメタな起用の加藤(AKB48)が一番おいしかった。メジャーでないミュージシャンがどんな生活を送っているのか興味深かったです。
ただ、「楽しすぎた」とゆべしが述懐する場面があるのだけど、僕のようなおっさんになるとカネや地位よりも、こうして音楽と恋に燃焼した若い時期があるというだけで人生の勝者だと思います。だから、コロナ禍のラストがうつるけど、彼らは敗者では決してない、羨ましい存在だとつくづく実感しました。
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