作品情報 2022年日本、フランス、フィリピン、カタール映画 監督:早川千絵 出演:倍賞千恵子、磯村勇斗、河合優実 上映時間:112分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:109シネマズ川崎 2022年劇場鑑賞149本
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【ストーリー】
高齢者社会への対策として、日本政府は75歳以上の高齢者が安楽死を選択できる制度「PLAN75」を導入した。79歳の独り暮らしの女性角谷ミチ(倍賞千恵子)は、勤務先を首になった。生活は苦しく、PLAN75の申請を検討しはじめる。
市役所の受付担当の岡部ヒロム(磯村勇斗)やコールセンターの成宮瑶子(河合優実)は、淡々と業務を進めていたのだが…
【感想】
安楽死制度は欧州の一部の国で導入されていますが、難病や激しい苦痛がとれないことなどが条件。年齢で一律安楽死を認めているところはありません。しかし、日本のような超高齢化社会で対策として安楽死というのは思考実験としてはあるでしょう。また、同調圧力が強く、自己責任の意識も大きいことから、始まったら案外多くの利用者がでるかもしれません。
脚本を手掛けた早川監督は、あえて「生きることは素晴らしいこと」という主張は前面におしだしていません。みちは高齢のため仕事をクビになり、ハローワークをめぐっても就職先はみつかりません。老朽化した団地が取り壊されることになりましたが、独居老人が借りれる部屋もありません。さらに、唯一人の親友(大方斐紗子)が孤独死してしまいます。
みちの几帳面な性格をみていると、これまで真面目に生きていたことが伝わってきます。しかし、年をとったということだけで社会から疎外される。人間、誰しも老化から免れないのになんで高齢者ということだけでつまはじきにあうのかは不思議です。冒頭、「やまゆり事件」を想起させるような事件が置きますけど、現役世代でこの犯人と似たような気持ちになる人も結構いるのでしょう。
そこまでシビアでなくても、ヒロムや瑶子にとって日々の業務を淡々とこなしているだけ。システムの一部にすぎない彼らは、対象も一人の人間であることは意識の外にあります。しかし、ヒロムは伯父(たかお鷹)がPLAN75を選択し、瑶子はみちと出会うことで、初めて自分のことと考えるようになり、前のような業務としては考えにくくなります。このあたりも、決して声高ではないのですが、システムと人間の関係を考えさせられて興味深い。
また、フィリピン人介護士の女性マリア(ステファニー・アリアン)を登場させ、フィリピン人コミュニティの濃厚さをみせる対比もよくできています。役所がブースで相談コーナーを造ったり、マリアたちに遺体の処理をさせたりなど、いかにも今の日本ぽさが笑えました。終盤はリアルというよりも、それまで積み上げたリアルのうえに、一種の幻想的なストーリーを出しているようにみえます。そのあたりがリアルでないという批判もありますが、僕はこれでありかなあ。
ただ、僕自身はPLAN75は作ってもらいたいし、できたら参加したいと現段階では思ってます。現在90歳近い老親の在宅介護をしていますが、体中が痛くてほとんど寝たきり。ろくに食事もできない様子をみていると、自分はあそこまでして生きたくないと思うからです。まあ、実際にその年になったらわかりませんが、それでも、ひと様に迷惑をかけたくない気持ちはいくつになっても変わらないと思ってます。見た人それぞれが老後と死をちょっとでもいいから考えるきっかけになるのでは。
倍賞は寂しさと気品をたたえた凛とした老女として、さすがの演技力ですし、歌うシーンもあって同年代の女優でも彼女以外はまり役は思い当たりません。磯村が静かで淡々と業務をこなす役柄はちょっと新鮮でした。河合は働きすぎといいたいほど、最近、多くの作品にでていますが、どれもキャラクターをきちんと演じ分けているのがすごかった。
なお、劇中、遺灰がリサイクル業者にだされて登場人物がショックを受けるシーンがありますが、既に東京、名古屋など大都市では実際に行われている制度です。遺族がいる人も、遺族が回収しきれなかった分はリサイクル業者に売られてしまうので、日本の葬祭のおかしさは、映画に先行していると思いました。
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