2022年06月30日

オフィサー・アンド・スパイ

 19世紀末のフランスを揺るがせたドレフュス事件を、軍幹部でありながら冤罪を解く努力したピカール中佐を主人公にした政治ドラマ。高校の世界史で習ったとはいえほとんど知識がなくピカールの名前は初めて知ったし、なかなか勉強になりました。政府がミスを認めず隠ぺいしようとするのは世の東西を問わないですね。

 作品情報 2019年フランス、イタリア映画 監督:ロマン・ポランスキー 出演:ジャン・デュジャルダン、ルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ 上映時間:131分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ川崎  2022年劇場鑑賞156本



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 【ストーリー】
 1894年、フランス陸軍参謀本部のドレフュス大尉(ルイ・ガレル)はドイツのスパイだとして終身刑となった。参謀本部唯一のユダヤ人であるドレフュスに対する憎しみは強く、完全な冤罪だった。

 判決後、陸軍の情報部長となったピカール大佐(ジャン・デュジャルダン)もドレフュスの有罪を信じていた。ところが、ドイツ大使館へ送られた新たな密書を発見。それはドレフュスのものとされた筆跡だった。ドレフュスは孤島の刑務所におり、スパイは別にいることになる。ピカールは早速捜査を開始するが、冤罪発覚を恐れた軍の上層部から捜査を止められ、ついに、上官への名誉棄損で逮捕され…

 【感想】
 ピカールのことはまったく知りませんでした。巨大組織が間違いを犯したときに中間管理職としてどうするのか。大部分の人間が真実に目をつぶるでしょう。上官に「ユダヤ人1人が捕まったのが何だというのだ」と言われたら、わが身の保身に走る人が大部分で僕も自信がありません。

 しかし、ピカールは職務を全うするために真実を貫くことを優先します。ドレフュスは士官学校時代の教え子とはいえ、反ユダヤ主義だったピカールは彼の逮捕に協力しています。しかし、自分の過ちを認めることになるのに、真実を追及していく態度はすごい。彼がいなければドレフュスの無実は証明されなかったでしょう。ピカールは正攻法では真実を明らかにできないと思うと、思い切った手段を次々にとります。軍幹部としてのプライドを傷つけられたことも余計に怒りに火をつけたのでは。

 一方で、フランス軍の上層部やピカールの同僚たちの態度はひどい。過ちを認めないどころか、証拠を捏造してまで有罪説を守ろうとします。それこそ、炎の少女チャーリーにみんな焼き尽くしてしまえといいたくなるほど、むかつきました。また、一般民衆も反ユダヤ感情が今では信じられないほど盛り上がっています。こうした上層部や世論に反対して正義を貫くことがいかに大変なことなのか、現代世界をみてもわかります。ピカールもドレフュスも最後は報われましたが、現代の世界で正義を貫こうとする人たちも報われればいいと、ウクライナ情勢をみると心の底から思います。

 ただ、ポランスキーがこれを撮ったことはフランスではだいぶ問題になりました。作品としては上質なサスペンスですが、ポランスキーは少女への淫行疑惑でハリウッドを追放されており、本作でセザール賞の監督賞を受賞したときは、抗議が殺到しました。

 また、作品でみても、ピカールの派手な女性関係を表すためでしょうが、ポランスキーは妻のエマニュエル・セニエを愛人役に起用しており、ユダヤ系だから冤罪だというポランスキーの主張と併せると、自分をドレフュスやピカールに照らし合わせているようにもみえます。そういったもろもろの事情を含めて、なかなか複雑な作品でした。

posted by 映画好きパパ at 06:00 | Comment(0) | 2022年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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