2022年08月11日

戦争と女の顔

 ベラルーシのノーベル賞作家スベトラーナ・アレクシエービッチのノンフィクション「戦争は女の顔をしていない」を原案に、PTSDなどに苦しむソ連の2人の元女性兵士を描いた作品。戦争が人の運命だけでなく精神すら狂わしていくことを、戦った女性の観点から描くというあまりないタイプの傑作です。

 作品情報 2019年ロシア映画 監督:カンテミール・バラーゴフ 出演:ヴィクトリア・ミロシニチェンコ、ヴァシリサ・ペレリギナ、アンドレイ・ブコフ 上映時間:130分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:シネマ・ジャック&ベティ  2022年劇場鑑賞203本 



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 【ストーリー】
 第二次大戦集結直後のレニングラード。イーヤ(ヴィクトリア・ミロシニチェンコ)は従軍中にPTSDを発症し、レニングラードに戻って看護師をしている今でも発作で意識を失うことがある。そのせいで、戦友のマーシャ(ヴァシリサ・ペレリギナ)から預かっていた幼い子どもを失ってしまった。

 マーシャは復員したが、子どもが死んでいたことにショックを受ける。さらに、戦闘中に受けた傷で子どもが産めない体になっていた。精神的に追い詰められたマーシャは、ある計画を思いつく。

 【感想】
 ソ連軍は男女平等で、他国と違って女性でも最前線に送られ過酷な戦闘を行っていました。イーヤとマーシャはまさにその典型です。しかし、戦後、男性は軍隊に残ったのに女性は社会に無理やり戻されました。スムーズに社会復帰できた人がいる一方、2人のように心に大きな傷をおったまま、何の手当てもされずに社会に放り出された人もいたわけです。

 イーヤがPTSDであることは、病院長(アンドレイ・ブコフ)は配慮してくれます。しかし、同僚や近所の人はうんざり、遠巻きにみています。イーヤもそうした周囲に合わせるのはしんどかったのか、孤立した状態にあります。一方、夫の仇をうつために従軍していたマーシャは、子どもを未来永劫失ったことで、やはり徐々におかしくなっていきます。

 夜の街で青年サーシャ(イーゴル・シュロコフ)といきずりの関係をもったマーシャはずるずると関係をもつことになります。まだ少年の面影を残し、マーシャが初めての女性だったサーシャは犬のように彼女にまとわりつきます。一方、マーシャとイーヤも親友を超えたような他人にはわからない独特の関係になっていきます。この3人の退廃的とも破滅的ともいえる関係がなんとも哀しい。サーシャが女性にうぶなだけになおのこと残酷さをかんじさせられます。サーシャの母との会話で、戦争で命をはっても平和になったらこんな扱いかというのが、見ているこちらの胸が苦しくなるほど。

 ポスターにあるような緑と赤のファッションをはじめ、くすんだ崩壊寸前の冬のソ連の街のなかで2人の女性のファッションが目にとまります。その一方で、裸になるシーンは印象的で、動物的ともいえる性交がなんともすさんだ時代を体現していました。全体的にスローテンポですが、それゆえに人が壊れてしまった様子をじっくりみせられ、しんどかった部分もありました。
posted by 映画好きパパ at 06:20 | Comment(0) | 2022年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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