作品情報 2020年フランス、ベルギー映画 監督:エリック・ベナール 出演:グレゴリー・ガドゥボワ、イザベル・カレ、バンジャマン・ラヴェルネ 上映時間:112分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい 2022年劇場鑑賞238本
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【ストーリー】
シャンフォール公爵(バンジャマン・ラヴェルネ)の料理人で、天才的な腕前を持つマンスロン(グレゴリー・ガドゥボワ)は、大事な宴席で当時下賤な食べ物とされていたジャガイモとトリュフの料理を出したためクビになる。
息子のバンジャマン(ロレンツォ・ルフェーブル)を連れて故郷に戻ったシャンフォールは閉鎖していた家業の旅籠を始める。だが、料理に関する熱意はすっかり失われていた。そんなかれのもとにルイーズ(イザベル・カレ)という女性が弟子入りを志願してくる。女の料理人なんてと最初は断ったマンスロンだが、彼女やバンジャマンのアイデアで、身分に関係なく旅籠の利用者へ美味しい料理を出す「レストラン」を開業することを決意する。だが公爵が…
【感想】
フランス革命前夜であちこちで騒乱が起きているのに貴族たちが美食や宮廷での寵愛にしか感心がなく、世の動きをまったくわかっていないのに驚きました。でも、大変革期の大部分の人間にとっては今でもそうなのかもしれません。その貴族たちが上にはへつらい、美食も自分が美味しいからと信じるのでなく、宴席で偉い人の反応をそのままうのみにしているというのが笑えます。結局、単に貴族に生まれただけで、知識も能力もないうえに傲慢だということを表しています。
一方、マンスロンは美食を追求し、ジャガイモとトリュフの料理を考案しました。しかし、貴族にとって創作料理はご法度。頭の固い権力者の好物だけをだせばいいからです。しかもそこに下賤な地面に映える食べ物(当時のキリスト教で下賤とされていたそう)を出すなんて論外です。しかし、公爵は体面は気にしても味は分かる人物で、マンスロンが謝ってくれば許す気でした。しかし、料理に誇りを持つマンスロンは自分が悪いとは思わず謝ろうとしません。この2人の意地っ張りさもおもしろい。さらに、大貴族の公爵のお気に入りという地位が忘れられず、庶民に料理を出すぐらいだったら早く公爵家に戻りたいというのも、今でいう大企業にしがみつきたいサラリーマンみたいで笑ってしまいました。
一方、ルイーズの正体は意外というか、いくらなんでも当時の身分的にないだろうという感じですが話をエンタメ方向に膨らませていきます。さすがにやりすぎのエピソードもありましたが、エンドロールのいちゃつきぶりが微笑ましくて、途中退場はなさらぬよう。また、シングルファザーであるマンスロンと息子の関係も面白く、料理の弟子として鍛えたいのに本好きで革命精神にもとんだ息子とのギャップと喧嘩、それでいて互いに愛情はしっかりと持っているところも何ともたまりません。
さらに、フランス革命の原因となった貧富の差についてもきっちり描いており、貧乏な村の子どもたちがマンスロンのパンを盗んでも、ちゃんと事情をわかってあげて許してあげるマンスロンと、庶民をとにかくバカにする貴族たちの対比がうまい具合にでています。公爵や公爵の腹心の部下の執事長(ギヨーム・ドゥ・トンケデック)も嫌なやつなんですが、マンスロンのことを認めていたりして、複雑な人物造形が、いかにも当時生きていたリアルさを受けます。
そして、なによりもおいしそうな食事の数々。公式サイトではジャガイモとトリュフの料理「デリシュ」のレシピが載っていますけど、そのほかにも豪華絢爛のフランス料理の数々がでてくること。でも一番すごかったのは、エピソードも料理も美術も素材としててんこ盛りなのにうまく交通整理して、しかも変に盛り上げずに抑制したタッチで描いたベナール監督の手腕かもしれません。日本の場合、とっくに庶民も武家も利用する料理屋はできていたけど、欧州ではなかったというのもちょっと驚きました。
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