作品情報 2022年日本映画アニメ 監督:新海誠 声の出演:原菜乃華、松村北斗、深津絵里 上映時間:121分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:Tジョイ横浜 2022年劇場鑑308本
ブログ村のランキングです。よかったらポチッと押してください
にほんブログ村
【ストーリー】
女子高生の岩戸すずめ(声・原菜乃華)は東日本大震災で母(花澤花菜)を失い、宮崎に住む叔母の環(深津絵里)に引き取られ育っていた。ある日、投稿の途中で不思議な青年宗像草太(松村北斗)から「この当たりに扉があるかい?」と聞かれる。
意味のわからなかったすずめだが、廃墟となった村で扉を発見。開けてしまうとともに知らずに要石をよみがえらせてしまう。実は扉を明けていると「ミミズ」と呼ばれる巨大な災厄が出て
しまい、草太の家系は「閉じ師」といって、開いた扉を閉めることを生業にしていたのだ。宮崎の扉は2人の活躍で閉じたものの、猫の姿をした「ダイジン」(山根あん)によって、草太は椅子に姿をかえられてしまう。草太の姿を人間に戻すとともに、各地の扉を締めるため2人はダイジンの後を追って長い旅を始めるのだが…
【感想】
東日本大震災を真正面から受け止めているために賛否両論がでています。僕自身は直接的な被災者でないこともあり、震災から10年以上たち、風化を防ぐために大規模なエンタメでのこうした取り組みには共感できます。「君の名は。」「シン・ゴジラ」が震災を暗示するといっても直接的に名指ししなかったのから、時代が進んだので必要な対応でしょう。ただし、被災者のなかに、面白くない思いをする人がいるのも理解できます。
ただ、すずめの苗字が岩戸で、最初の出発地が宮崎であることから、これは現代に日本の神話を再構築する物語だと思いました。地震の原因がミミズという非科学的なものへの批判は、神話を批判することは筋違い(一部被災者の心情は理解できるにせよ)と思いました。むしろ、すずめや草太のような人間が神とわたりあえるというのは日本の神話の特徴ともいえましょう。
また、過去2作と違い主人公は女の子です。しかも、自ら災害を抑えようとします。過去2作が女の子は男の子に助けられる存在で、災害も発生は防げずそこから逃げるかどうかにかかっていたことに比べると、一見同じように見えても根幹は全然違うと思いました。これも日本の神話は天照大神から始まるわけですし、現代の神話という路線で読み解きました。
さらに、皇居が重要な場所になっているのもポイント。現代を舞台としたエンタメ作品で、皇居を真正面から描いたのは空前絶後ではないでしょうか。東京をあれだけ破壊したシン・ゴジラも皇居を映すのは避けています。「太陽を盗んだ男」で日本の戦争責任と絡めて皇居を描いたことがありますが、それ以来だと思います。これも、神話だと考えれば神の末裔である天皇家が住む皇居が描かれるのも当然です。
また、ロードムービーの中に愛媛が登場するのもなぜかということもあります。これは伊方原発訴訟で、阿蘇山噴火などの大災害があれば原発の2次被害が起きるとして差し止めを認めた判決を想起します。原発安全神話という現代の神話が福島で崩れました。しかし、それから10年以上たち、多くの人が忘れています。震災の風化では、自然に帰った現在の被災地をみた登場人物が「きれい」と感想を述べたのにたいし、震災孤児のすずめが複雑な表情をする場面があります。そういう風化を忘れないために愛媛を入れたのかと思いました。僕自身は原発再稼働には特に反対していませんが、風化はまずいだろうと思います。
さらに、親を失ったことで生きることへの気力がなくなっていたすずめが草太や旅の途中で出会った人とのふれあいで、生きる意味を再び見出すというプロットが素晴らしい。これがクライマックスの感動的なシーンにつながるわけです。
新海映画ならではの緻密な作画、RADWIMPSの音楽も相変わらず素晴らしい。これまでも数々の名作を産み出した新海監督ですが、従来の作品をふまえたうえで、さらに一段高みに上った気がします。
【2022年に見た映画の最新記事】