2022年11月23日

土を喰らう十二カ月

 昭和の人気作家、水上勉のエッセーを基に、日本の風土や死生観を食を通じて描いた意欲作。土井善晴が料理を手掛けたこともあり、粗食なんだけどどれも食べたくなるものばかりでした。

 作品情報 2022年日本映画 監督:中江裕司 出演:沢田研二、松たか子、奈良岡朋子 上映時間:111分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:シネスイッチ銀座  2022年劇場鑑賞312本



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 【ストーリー】
 信州の山奥の古い日本家屋に一人住む作家のツトム(沢田研二)。少年時代に禅寺で精進料理の修業をしたことから、現在も自分で畑を耕し、山菜やキノコを採る質素な生活をしている。妻は13年前に亡くしたが、未だに忘れられず遺骨は埋葬せず棚に飾っている。

 地元の人を除けば時折訪れるのは担当編集者の真知子(松たか子)のみ。自ら手料理をふるまって歓待する。また、妻の母チエ(奈良岡朋子)も同じ村に住んでおり、たまに行き来する中だった。しかしチエが突然の孤独死。葬儀をすることになったツトムは…

 【感想】
中江裕司監督は沖縄の映画というイメージがあったので、信州の雪深い山奥を舞台にしたことにとにかく驚きました。ツトムが食べるものは野菜や豆腐など精進料理ばかりで魚や肉は作中にはでてきません。それでも地産地消でないですが自分で育てたり採取したものを丁寧に洗って、下ごしらえして、調理する。本来、日本人は肉食はほとんどしなかったわけで、洋食主体の僕の食事とは対極で材料費もかかっていないだろうに、手間暇をかけることがこんなに大切なのかということが実感します。

 真知子との関係も大人の関係。ラブシーンは皆無というのは邦画らしいのですが、以心伝心、しっかりと通じ合っています。沢田研二の重たい存在感に松たか子の軽妙な演技がぴったりあい、真知子の「アイヨッ!」という掛け声は耳に残るし、ツトムと一緒に豪快に食べるのも気持ちがいい。ツトムもいつまでもこのような生活をしていきたかったのでしょう。

 しかし、時間というのは残酷です。妻の死はまだ中年だったため自分に置き換えることはあまりなかったのでしょう。しかし義母の死は、ツトムにとっても他人事ではない。死とは何か真剣に考えるようになります。禅寺で修行したとはいえ、死を人間はそんなに簡単に受け入れられるわけではありません。さらに、ツトムはもう老人ですが、真知子はまだ若い。それこそ結婚はどうするのか、仕事は続けるのかなど俗世の難題がまっています。俗世といえば、チエの死をめぐって義弟夫婦(尾美としのり、西田尚美)にチクチク責められるのも、単なる日本礼賛でなくそういう村社会的な嫌なところまで含めたのが日本だとわかっていい。

 でも、食べるということは生の営み。1年かけて丁寧に撮影したというだけあり、植物の
芽生えや鳥の鳴き声、四季の移り変わりなど万物が生きていることも実感させられます。起伏のある作品ではありませんが、しっとりといろいろ思いを巡らせることになるでしょう。奈良岡、檀ふみ、火野正平、尾美ら脇役もベテランを起用して落ち着いた雰囲気。大友良英の音楽もぴったりはまっていました。世知辛い現代人が忘れてしまった古き良き日本を堪能できます。  
posted by 映画好きパパ at 22:29 | Comment(0) | 2022年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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