2022年11月27日

ファイブ・デビルズ

 幼い少女が母の若いころにタイムリープを繰り返すことで起きる悲劇を淡々と描いたSFサスペンス。「パリ13区」の脚本家、レア・ミシウスが監督と共同脚本をしていますが、Hなシーンがほとんどなかったのがフランス映画としてはちょっと意外。

 作品情報 2021年フランス映画 監督:レア・ミシウス 出演:アデル・エグザルコプロス、サリー・ドラメ、スワラ・エマティ 上映時間:96分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ渋谷  2022年劇場鑑賞318本



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 【ストーリー】
 フランスの小さな村で暮らす8歳の少女ヴィッキー(サリー・ドラメ)は黒人と白人のハーフ。内向的な性格のうえ嗅覚が異常にすぐれているため、大好きな母ジョアンヌ(アデル・エグザルコプロス)の臭いを瓶に入れて保存するなどの行動が気味悪がられ、学校でいじめられていた。 

 ある日、父ジミー(スタファ・ムベング)の妹ジュリア(スワラ・エマティ)が家に滞在することになる。ジュリアは村中の嫌われ者で、ジョアンヌは早く追い返すようにいうがジミーは妹を受け入れる。一方、ヴィッキーはジュリアが現れたことがきっかけで、母の高校時代にタイムリープを繰り返すようになる。そこでは、まだ若い両親とジュリアが出会ったばかりだった。

 【感想】
 ネタバレせずに感想を書くのは困難ですが、できるだけネタバレなしの感想を。最初、タイトルだけ聞いたときに5匹の悪魔が出てくるのかとおもいきや、村の名前が「ファイブ・デビルズ」でした。一方で、冒頭、「シャイニング」を彷彿とさせる山道を疾走する自動車を遠くから空撮するシーンが続くとともに「ミー・アンド・ザ・デビル」という曲が鳴り響きます。見終わった後、いったいだれが悪魔だったのかと考えさせられました。

 臭いをかいだらタイムリープするというのは「時をかける少女」を思い出しますが、さすがにフランス映画ではそのオマージュではないか。でも、目だけがギラギラしているジュリアが黙って立っている様子は「アス」を思い出しますし、SF、ホラーの過去作をリスペクトしたような描写があるのは映画ファンとしてうれしい。

 タイムリープを描いているけれど、実際には狭い村に閉じ込められた若者や子どもの心理劇。人種差別や同性愛差別が濃厚にあるなか、村から出ようとする若者や他人と違った子どもは迫害される。タイムリープしたヴィッキーは基本的に静かに様子を見守るだけですが、自体はどんどん悪化していく。

 タイムリープ先の10数年前を悪化させるだけでなく、大好きな母親との関係がどんどんおかしくなっていくのが何とも悲しい。8歳は母親が一番好きな年ごろだし、ガッツポーズを撮ったシーンをみると、自分でも母親との関係がこじれるのを恐れていたことがわかります。親離れするにはまだ幼すぎるし、能力が与えた悲劇と、能力なしでは生きられない悲劇で、この先、彼女はどうなっていくのか不安を覚えます。ラストも思い切り観客の想像にゆだねていますし。

 一方、男性の僕からするとジミーがとても可哀そう。過去を乗り越え確かなものとしてあったはずの現在ですが、結局、過去を乗り越えきれず。男女の愛というのはいかにうつろいやすいかと思わされました。ラストのシーンはジミーのさらなる悲劇を予感させます。

 フランスの寒々しい寒村の風景は何ともいたたまれなくなります。さらに閉鎖的な関係が輪をかけて締め付けてくる。アデル・エグザルコプロスは「アデル、ブルーは熱い色」から随分きれいに年を重ねて、母親役と女子高生役の双方が遭っているのは驚き。でも何よりも子役のスワラ・エマティの哀しい目が印象的。今度は明るい役にめぐりあってほしいなあ。

posted by 映画好きパパ at 20:29 | Comment(0) | 2022年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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