作品情報 2021年日本映画 監督: 石川慶 出演:妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝 上映時間:121分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:109シネマズ川崎 2022年劇場鑑賞321本
ブログ村のランキングです。よかったらポチッと押してください
にほんブログ村
【ストーリー】
宮崎の田舎町で文房具店を営むシングルマザーの武元里枝(安藤サクラ)は、常連客の谷口(窪田正孝)という男と仲良くなる。最近、町にやってきて林業の仕事に就いた彼は物静かで絵を描くのが趣味。ほどなく2人は結婚して娘も生まれ温かい家庭を築いていた。
ところが、3年9か月後に谷口が事故死。絶縁状態だった谷口の兄(真島秀和)が弔問に訪れるが、この男は弟でないといいだす。驚いた里枝は知り合いの弁護士城戸(妻夫木聡)に調査を依頼するのだが…
【感想】
「愛したはずの夫はまったくの別人でした」というキャッチフレーズがぴったりあいます。名前というのは一体何なのだろう、外見より中身というけれど名前は本当に大切なのかと思ってしまいました。偽谷口にとって、本当の名前は生きる上での足かせでしかありませんでした。名前なんて実態のないものに人はなんでとらわれるのか不思議になりました。
もう一つ、家族、血もそうです。偽谷口だけではありません。城戸は在日韓国人3世。イケメンの弁護士ということで、あからさまな差別をうけることは少ないですが、妻香織(真木よう子)の資産家の両親(モロ師岡、池上季実子)は無意識の上に在日を下にみて、悪意なく傷つけます。城戸はあいまいな笑顔でやりすごすしかない。でも、その城戸の内面は妻ですらわからない。自分にはどうしようもない血というもので、人は傷つけられることがある。そしてそのことに思いもよらない「幸せ」な人もいる。いろいろ考えさせられます。
本物の谷口(仲野太賀)が実家を逃げ出したのも、押しの強い兄に無意識に傷つけられたからでしょう。自分では善人だと思っているけれど、他人を傷つけてもなんとも思わないし、傷つけたこともわからない。そんな人が増えているのが今の日本という気がします。同時に里枝のように、そうした世間でもひっそりと生きている人がいるのが美点なんでしょうね。
石川監督は非常に丁寧な演出で、里枝と偽谷口が幸せな家庭を作るところをじっくり描きます。もし、事故がなければ彼は谷口として終えたでしょう。義理の息子の悠人(坂元愛登)と次第に深まる関係も見ていて微笑ましかった。ここでしっかりと偽谷口を確かにそこにいる人と見せたのが全編を通して一本の太い骨が走りました。
妻夫木、安藤、窪田の主役たちは完璧といっていい演技。脇役では清野菜名が「耳をすませば」とは雲泥の差のしっとりとした部分をみせたほか、河合優実の恐怖におびえる表情が最高でした。やっぱりちゃんとした役者による芝居は安心できます。
本作の特徴は、これまで石川作品でカメラマンであり続けたポーランドのピオトル・ニエミイスキがコロナ禍の入国制限で参加できず、「万引き家族」などの近藤龍人にバトンタッチ。日本を斬新な視点でとらえていたニエミイスキと違い、日本の土着を真正面から静かに撮るカメラも本作には向いていました。
【2022年に見た映画の最新記事】