作品情報 2022年日本映画 監督:松本准平 出演:小雪、田中偉登、吉沢悠 上映時間:113分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:横浜ムービル 2022年劇場鑑賞325本
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【ストーリー】
教師の夫正美(吉沢悠)、3人の息子と幸せな家庭を築いていた主婦の福島令子(小雪)。だが、赤ん坊で末っ子の智の目が悪く、県立病院でさんざん誤診されたあげく右目は失明してしまった。さらに9歳になってもう片方の目も失明する。
だが、盲学校に進んだ智(田中偉登)は明るく友人も多かった。しかし、聴力も聴こえにくくなり、令子とともにさまざまな医者をまわるのだが…
【感想】
福島氏は1962年生まれなのですが、映画は予算の関係か公衆電話などそれよりあとの時代の感じ。とはいえ、障害者への差別や無理解、医療ミスをしても威張っている医者など大変な時代を良く乗り越えていかれたと感心します。特に出番はわずかですが、偉そうで嫌味な医者役にリリー・フランキーを配するというキャスティングはすごい。松本監督の前作「パーフェクト・レボリューション」で主役だった関係かもしれませんが、時代背景など一発でわからせます。
障害児に令子がかかりっきりになることで、兄2人は母親からかまってくれない疎外感を持ちます。正美も仕事が忙しく、智が入院する日も休めないといいます。これは当時の仕事優先社会なら当然かもしれないけれど、令子にとってはつらい。でも、明るくたくましく家族へ向き合います。さらに、泣いてばかりでなく「指点字」を発明するなど前向きに子育てを行います。小雪は本当に母親役がよく似合う女優になったなあ。また、吉沢演じる父親が迷いもがきつつも家族の支えになる姿は、単なる美談でなく等身大の父親像として共感できました。サングラスやビールを飲むのがさりげなく心にしみいります。
兄2人もぐれたりせずに、智と仲良しなのはいい。また、正美も彼なりに家族を支え、令子の心のよりどころになります。こういう家族は本当に理想的で、人間にとって本当に大切なものがなんなのか、考えさせられます。もちろん、一番大変なのは智ですが、彼が失明、失聴のうえ得た境地というのも、並大抵の人間にはできません。視力、聴力を失っても考える力は奪えない。何しろ東大教授までなってしまうのですから。これも令子をはじめ温かい家庭で育ったことと、本人の芯の強さの両面なんだと心打たれます。
松本監督は前作に引き続き、障害者ものといっても変に泣かせようともせず、辛気臭いだけでもありません。智のやんちゃぶりや初恋といったものは微笑ましく良いアクセントになります。一方で、外部とコミュニケーションがとれなくなって完全な孤独になることへの恐怖も体感できました。等身大に障害者のことを描ける商業監督として、松本監督の手腕は確かなものです。
タイトルの桜のシーンはもとより、海辺のシーンなど家族、母子の愛情を感じさせる名場面が多々あります。また、吉野弘の詩の朗読も効果的で胸をうちます。また、エンドロールに流れるのが全盲のピアニストとしてしられる辻井伸行演奏のベートーベンの「悲愴」が最後まで余韻を残してくれました。
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