作品情報 2022年日本映画 監督:片嶋一貴 出演:東出昌大、入山法子、吹越満 上映時間:125分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:横浜シネマリン 2022年劇場鑑賞342本
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【ストーリー】
昭和2年、詩人の三好達治(東出昌大)は先輩詩人、萩原朔太郎(吹越満)の妹慶子(入山法子)に一目ぼれ。婚約までこぎつけるが勤務先の出版社が倒産して貧乏になったことから破談になる。三好は佐藤春夫(浦沢直樹)の姪智恵子(関谷奈津美)と結婚するが、慶子のことが忘れられなかった。
昭和17年、慶子の夫の佐藤惣之助が病死したことから、達治は妻子がいるにもかかわらず慶子を連れて福井県の三国湊に2人で疎開する。そこで夢に描いた愛の生活を始めたのだが…
【感想】
三好の激しい愛とともに戦争に文学、詩はどう向き合うのかというテーマを背景にした文芸作品。原作は朔太郎の娘の萩原葉子が1966年に発表した小説で、慶子のモデルとなった叔母のアイから話をきいているそう。映画には葉子の息子の萩原朔美の出版社の社長役で登場しています。
詩人が主人公ということであちこちで三好の詩の引用がされています。特に東出が三好の戦争詩を朗読し、そのバックに当時のニュース映像が流れる演出は素晴らしい。東出の独特の声が朗読によくあっています。さらに、僕もしらなかったのですが三好は陸軍士官学校(中退)で、2・26事件の首謀者、西田税とも親交があり日本の軍国主義に賛同する一方、戦争詩は自分で書きながらも芸術としては失敗作だとの自嘲もあり、当時の文人の複雑な心情を描いています。
一方、当初は伝記映画にありがちな史実を知らないとわかりにくいのかと思っていたのですが、時間を入れ子のように組み替えることで、慶子への長年の恋慕が妻子を捨てるほど激烈で、同時に慶子と生活するうちに詩人なのに言葉ではなくて自らのDVで破綻していく狂ったほどの愛のすさまじさがまじまじと伝わってきます。もちろんDVをふるう三好はだめだめなんだけど、周囲が慶子に我慢するよう説得するというのがいかにも昭和的発想でおぞましかった。
三好は一見すると丁寧で紳士的で、でも内面の感情があふれると狂ってしまう。まさに東出が適役です。一方、入山はこれまで脇役が多かったと思うのですが、奔放な愛に生きながらもDVに苦しめられ、壊れていくヒロインを熱演し、存在感をみせています。福井では家事が苦手な慶子に代わって三好が自ら包丁で魚をさばいていたのだけど、でてくる料理のおいしそうなこと。同時に戦争の品不足と売れない詩人のダブルパンチで経済的な困難が2人の生活をよりみじめにして、関係に影を落としていくのをみると2人もまた時代の犠牲者なのかと思えてなりませんでした。片嶋監督は「アジアの純真」という怪作を手掛けていますが、共同脚本の荒井晴彦とともに、不自由な社会への怒りを表す作風ですね。
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