2022年12月23日

そばかす

 恋愛や性行為に関心を持てない人たちをアロマンティック・アセクシャルと呼びます。本作はそれを真正面から取り上げた初めての邦画ではないでしょうか。僕自身、アセクシャルの傾向があるので、他人事とは思えずひたすら見入っていました。見た直後の興奮ということもありますが、今年ベストです。感想は自分語りで長くなってしまった…

 作品情報 2022年日本映画 監督:玉田真也 出演:三浦透子、前田敦子、坂井真紀 上映時間:104分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:新宿武蔵野館  2022年劇場鑑賞344本 



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 【ストーリー】
 30歳になる蘇畑佳純(三浦透子)はチェリストになる夢を諦め、コールセンターで働きながら実家暮らし。気楽な生活に満足していたが母(坂井真紀)は30歳になっても恋人ができない佳純を心配し、半ばだまし討ちで見合いをセッティングする。

 恋愛も結婚もまったく興味のない佳純だったが、見合い相手の翔(伊島空)がラーメン屋を立ち上げたばかリで忙しく、自分も恋愛、結婚に興味がないといったために意気投合。友人付き合いをはじめるが、ある日、翔に迫られて…

 【感想】
日本ではまだまだマイナーな存在ですが、NHKドラマ「恋せぬふたり」で多少認知度が広がりました。「恋せぬふたり」も秀作でしたが、高橋一生がいかにもイケメンだけど変人というふうな演出でフィクション感が強く、必ずしものめりこめませんでした。本作は三浦の等身大さが魅力。自分にも思い当たる節が多々ありました。

冒頭、佳純は同僚(佐藤玲)に食事に連れられたところ、合コンでした。愛称や誰がタイプなどのたわいのない話で盛り上がりますが、佳純にはついていけません。逆に彼女が関心のある映画の話を熱心にしようとすると周囲から引かれてしまいます。僕自身の20代のころを思い出した。学生時代、飲みに行くのは好きだけど、話題の中心は恋愛、性愛につながることばかり。周囲に合わせようと自分は××がタイプと嘘をいったり、過去の武勇伝をでっちあげたり。でも、友人に合わせようとして嘘をつくのって疲れるし、結局、友人関係を壊してしまうのですよね。

 新卒で入った会社はマッチョな雰囲気が残っており、酒席で女性先輩からみんなの前で自分の初体験話をしろといわれたとき、そういうことに一切興味がなかったので泣きそうになりました。そういう環境がしんどくて人間関係もろくにつくれなかったのですが、佳純の場合、弱そうに見えて実は自分の軸がしっかりしているし、時代も多様性にあわせようと変化しているので、うざいと思いつつも精神的にダメージをうけるところまではいっていないのがよかった。僕が若いころは恋愛、性愛をしないのは異常だということを自分ですら信じて、自分がとんでもなく異常な人間だとずっと思い悩んでいたから。

 さらにゲイの剛志(前原晃)、元AV女優の真帆(前田敦子)といった性的に多様な友人がフラットにいるのもいい。僕はもう50歳を超えたので恋人だの結婚だのという話をしなくてすむようになりましたが、若いころの友人とは話が合わずに疎遠になってしまいました。
でも、佳純はうまい具合に友達が見つかっていって、ああ、こういう風にしっかりと前を向いて歩けるひともいるのだと、僕の心を癒してくれます。

 また、佳純の家族も母親は口うるさいけど悪意があるわけでないし、父親(三宅弘城)はうつで休職中、同居の祖母(田島令子)は3度の離婚、妹(伊藤万理華)は妊娠中だけど夫に浮気されていると、これまた精神的に多様で、互いに変にねっとりとした一体感、同調性を求めていないのもうらやましすぎる。家族団らんシーンとか笑えるセリフの応酬で、見ているうちに笑いながら涙が出そうになりました。とくに鬱だからか優しい父親との関係があまりにもエモい。時代が悪いのか、自分の性格のせいかわかりませんが、とにかく、僕には手の入らなかった人間関係に恵まれている佳純がただただまぶしかった。映画のテーマはひとりぼっちじゃない、だけれど、現実は必ずしもそうならない。

 一方、佳純が翔に言い寄られて戸惑うシーンは共感性羞恥というのでしょうか、自分の体験とも重なりとても動揺して、思わず手で目を覆ってその隙間から観てました。なぜ、男女は性愛ぬきで友人として付き合えないのか。そして、自分自身が傷つくとともに、相手を傷つけてしまい、そのことでさらに自分が深く傷つく。三浦透子が時折、一人海辺にいってさみしそうに寝転がるシーンがありますけど、やはり自分のことはなかなか他人に理解してもらえないし、一部でも理解してもらえるのならば幸せなことだとつくづく思います。

 大きな出来事があるわけではないですし、一応、きれいなまとまり方はするけれど、アセクシャルとは一生付き合わなければなりません。人間関係も年をとるとともに変化していきます。佳純のこれまでの人生や今後どのような生活を送るのか、ずっと見ていたくなりました。

 三浦透子は「ドライブ・マイ・カー」で一躍有名になりましたが、本作の等身大の悩みに向き合う女性役は本当にぴったり。家族に芸達者な役者を配したのもよかった。そんななか、前田のいかにもな存在感と本作にぴったりの声はアクセントになりましたし、友情出演の北村巧海の使い方もすばらしい。三浦が歌う主題歌やヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」のチェロ演奏を含めた音楽もはまっていたし、玉田監督、脚本のアサダアツシをはじめこれだけ僕の心に染み入る傑作を作ってくれたスタッフに感謝しかありません。作品で「アセクシャル」という単語を入れない上品さも素敵でした。
posted by 映画好きパパ at 06:01 | Comment(0) | 2022年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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