作品情報 2022年ドイツ映画 監督:マッティ・ゲショネック 出演:フィリップ・ホフマイヤー、ヨハネス・アルマイヤー、マキシミリアン・ブリュックナー 上映時間:112分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:川崎チネチッタ 2023年劇場鑑賞36本
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【ストーリー】
ユダヤ人問題の最終解決のために、ナチスの国家保安本部長官のハイドリヒ(フィリップ・ホフマイヤー)は、ヴァンゼ―湖畔の別荘に国家親衛隊(SS)、ナチス党、内務省、法務省などの幹部を招いて会議を開く。各省庁の利害を調整しながら、ハイドリヒはユダヤ人絶滅を承認させようとして…
【感想】
ナチス・ドイツの戦争犯罪についてはハンナ・アーレントの「悪の凡庸さ」という哲学が強烈な言葉になっています。本作もその通り。ハイドリヒやアイヒマン(ヨハネス・アルマイヤー)といったSS関係者はまだしも、文官のなかには牧師だったり、子供が生まれるため優しいパパの顔を見せたりとごく普通の人間にしかみえません。それが、1000万人を殺害することを何らためらいなく決めるのだから人間は恐ろしい。
驚いたのは、ハイドリヒのように暗殺したりアイヒマンのように戦後死刑になったりしたものもいる一方、文官は戦後も普通に生活していた人がいること。ドイツの戦争犯罪は日本よりもはるかに組織だったジェノサイドという点では悪質なんですが、日本のリベラルの中にはドイツは反省したのに日本はしていないなんてことをいう人がいますよね。しかし、1000万人虐殺を決定した人が戦後ものうのうと暮らしているドイツのほうがはるかに悪質ではないでしょうか。
会議の進め方は普通のビジネスミーティングみたい。ハイドリヒはSSに権限を集めようとして、内務省は抵抗します。正論を述べる内務次官シュトゥカート(マキシミリアン・ブリュックナー)に対して、論点をそらす一方、休憩をとって2人きりになり私情をいれながら相手を切り崩す。ハイドリヒはやり手のビジネスマンとしか思えません。
他の文官たちも自分の省庁の権限死守と、面倒な仕事は他人に押し付けたいということしか考えておらず、そもそも1000万人虐殺がおかしいのではという人は15人の参加者には一人もいませんでした。それどころか凍死させるのはかわいそうで、銃殺だと後始末が大変。ガス室で処理するのが一番人道的なんて、とんでもないことを本気で信じて実行しようとしています。
組織の歯車というか、善悪を考えずに組織を妄信するというのは今の日本の企業不祥事をみても蔓延しています。それがいきつくところまでいくとこうなるのかというのも恐ろしい。BGMもないし、エンディングもひたすら無音。とにかく深く考えさせる秀作でした。
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