2023年02月22日

ぬけろ、メビウス

 地方の若い女性の等身大の悩みをリアルかつコメディチックに描いている青春映画の傑作。当初はいらいらした主人公の成長ぶりと、あくまでもリアルに進むストーリーが良かった。

 作品情報 2023年日本映画 監督:加藤慶吾 出演:坂ノ上茜、藤田朋子、細田善彦 上映時間:93分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:シネマカリテ  2023年劇場鑑賞55本



ブログ村のランキングです。よかったらポチッと押してください
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村
 【ストーリー】
 地方都市で契約社員として働く優子(坂ノ上茜)はおでん屋を営む母久美子(藤田朋子)に女手一つで育てられた。恋人の太一(細田善彦)は優しくプロポーズ直前まで進んでいるが、優子はなんとなく不満を抱えていた。大学進学をあきらめ地元の専門学校に進んだのも、 おでん屋の常連客である太一を紹介してくれたのも久美子で、自分は母親の言いなりになっているという気がしていたのだ。おりから職場で雇止めを通告された優子は、幼いころの夢だった教師になろうと、大学受験を計画するのだが、久美子も太一も本気にしない。

 ある日、コンビニでイケメンの青年・瑛人(田中偉登)がまごついているのを助けた優子。東京から別荘に来ている金持ちのエリートだと知ると舞い上がり、太一をほったらかしにしてデートを計画する。しかし、彼へのコンプレックスで大卒と偽ってしまい…

 【感想】
 はたから見れば仕事もあって優しい恋人もいる。悪くはないはずなんだけどなぜか幸福になれない。実は心理学的に人間が幸福感を感じるのは自分の人生の主導権を自分で握っていると感じているときといわれます。優子は物質的に見れば、地方都市でそこそこの生活ができているのだけど、心理的には母親の言いなりというのをひけめに感じて幸福感を得られませんでした。これは、結構、思い当たる人も多いのでは。

 劇中、メビウスの輪を縦に真ん中できるとどこまでも長い輪になることが、瑛人の豆知識として紹介されます。したがって、メビウスの輪から抜け出せないように、ぬるい日常から抜け出せない状況を表しているタイトルが秀逸。人間の幸せって難しいですよね。

 ただ、優子は完全無欠とはいいがたく、習い事もすぐ飽きてしまいます。久美子や太一が真剣だと受け止めないのもむべなるかな。さらに、優子自身も教師になることが目的というよりも、メビウスの輪から抜け出す手段として教師になりたいと手段と目的を混合していました。そこへ、イケメン王子様が退屈な日常から連れ出してくれそうだとわかったからさあ大変。

 不倫、浮気の定義は人それぞれで、肉体関係をもたなければいいという人もいれば、こっそりデートするだけでも浮気という人もいるでしょう。優子はそんなに深く考えていなかったけど、周囲からはひんしゅくを買ってしまいます。このあたりの登場人物各人の考えの違い、そして、コンプレックスから嘘をつく弱さを含めて、脇役に至るまで人物造形が書き込んでいて、最後まで飽きませんでした。登場人物が優子も含めて、愚かなところはあるけれど悪人でないというのもほっとします。女同士の友情は男性の僕はわかりにくいけれど、優子と親友の奈月(松原菜野花)の関係はなんともうらやましく尊い。

 坂ノ上は「BAD CITY」ではハードなアクションをみせていましたが、本作では等身大のコメディエンヌぶりを発揮。役柄の幅広さは感心します。細田、藤田ら脇役も芸達者ですが、特筆すべきは瑛人の両親役の寺脇康文と加藤貴子。喜劇っぽい演出で根は善良なのにナチュラルに嫌味を感じさせる金持ちという薄っぺらい役がはまりまくっていました。こりゃ瑛人みたいな子供が生まれるはと納得。優子と久美子の喧嘩しつつも心底で思いやれる親子関係の庶民のほうがよほど健全だと思っちゃいました。
posted by 映画好きパパ at 06:03 | Comment(0) | 2023年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。