作品情報 2022年日本映画 監督:外山文治 出演:岡本玲、磯西真喜、海沼未羽 上映時間:135分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:川崎チネチッタ 2023年劇場鑑賞70本
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【ストーリー】
新聞に「茶飲友達募集」と出された3行広告。実は高齢者専門の売春クラブの案内だった。主宰する佐々木マナ(岡本玲)は元風俗嬢。孤独で行き場のない高齢男性向けに、貧困や生きがいに苦しむ高齢女性をあっせんしていた。
実母(名越志保)と絶縁状態のマナは、高齢の風俗嬢や若いスタッフに「ファミリー」を作ろうと呼びかける。中でも食べ物がなくスーパーでパンを万引きしていた松子(磯西真喜)とは本当の母子のように仲が良かった。一方、スタッフも世の中からはみ出した子が多く、千佳(海沼未羽)は不倫男に捨てられ妊娠していたが生活できずに困窮していたことを、「ファミリー」に救われた。しかし…
【感想】
年を取ると性欲は衰えると若い人は誤解していますが、日本性科学会の調査によると70代男性でも75%は性欲があります。しかし、死別や未婚で独り身の場合、若いころは合コン、出会い系、性風俗店などの手段はありますが、高齢者では困難です。一方、単身女性高齢者の半数が貧困状態にあります。さらに、男女を問わず社会から孤立している人も多い。それでいて100歳まで生きるというのは、生き地獄のようなものかもしれません。
そうした意味では高齢者同士の性風俗は一定のニーズがあるでしょうが、現状ほとんどありません。法律で売春は禁止されていますし、許可されている性風俗産業も高齢者は相手にしていないからです。じゃあ、孤独で貧乏な高齢者はどうしたらいいのか、という答えはだれももっていません。
本作は実際にあった事件をモデルにしていますが、大きな変更点は主犯を若い女性にして、しかも高齢者福祉を何とかしようという善意ではじめたという点です。また、彼女の意見に肩入れすることもなく、俯瞰的な描写が続いています。
自分自身、あと10数年で高齢者になってしまうわけですから、こういった孤独に耐えなければならない事態になったらどうするのか。映画では資産家なのに子供に裏切られて老人ホームに姥捨て山のように追いやられた男性もでてきて、金や家族がいれば安泰というわけではありません。昨年「PLAN75」が話題になりましたけれど、本作は現実に起きている答えのない問題を取り上げているだけに、余計に怖い作品でした。
それだけに終わらないのが、千佳のような若い世代の問題も取り上げていることです。シングルマザーの貧困はよくいわれていますが、男に捨てられ役所も冷たく彼女が頼るところは「ファミリー」しかありません。しかし、「ファミリー」は違法行為のうえになりたった砂上の楼閣。最近は若い貧困女性を切り捨てるムードが高まっていますが、彼女をめぐるエピソードも今の時代にあった話でした。そしてマナと毒親ともいうべき母親との関係。クライマックスのシーンは見方が分かれているようですが、本当の家族だからこそ生き地獄であると僕は受け止めました。
岡本はモデル時代に人気がありましたが、映像では代表作がありません。それだけにやりての実業家と家庭環境にあこがれるもろさの二面性を見事に体現している演技に驚きました。さらに渡辺哲をはじめとする高齢の俳優の体当たり演技は他の映像作品ではみられないでしょう。まさに現代のタブーに切り込んだ形。高齢者は縁側で日向ぼっこをしていれば良いという発想こそがタブーにつながってるんでしょうね。10年がかりで企画を進めてきた外山監督に大きな拍手を送りたい。ユーロスペース単館上映から全国51館への拡大上映と勢いづいているので、ぜひ多くの人に見てもらいたい作品です。
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