1990年代末の混沌としたロシアを舞台に、長距離列車のコンパートメントで同室となったフィンランド人留学生とロシア人労働者の触れ合いを描いたロードムービー。ゆったりした作品ですが、このころのロシアを旅したくなりました。こんなおおらかな国民性なのになぜ戦争を起こすのか。
作品情報 2021年フィンランド / ロシア / エストニア / ドイツ映画 監督:ユホ・クオスマネン 出演:セイディ・ハーラ、ユーリー・ボリソフ、ディナーラ・ドルカーロワ 上映時間:107分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:シネマカリテ 2023年劇場鑑賞93本
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【ストーリー】
1990年代末、モスクワに留学していたフィンランド人女性留学生のラウラ(セイディ・ハーラ)は、恋人の女性教授イリーナ(ディナーラ・ドルカーロワ)と世界最北の鉄道駅、ムルマンスクの町にある古代彫刻「ペトログリフ」を見に行く約束をする。モスクワから寝台列車で2泊3日の旅立った。
ところがイリーナは所要でドタキャン。一人で寝台列車のコンパートメントに乗ったラウラは、同室の若い炭鉱労働者のリョーハ(ユーリー・ボリソフ)からなれなれしく話しかけられてうっとうしく思う。しかし、旅を2人はともにするうちに次第に心境に変化がでてきて…
【感想】
ロシアは広い。そして貧しい。モスクワを出発してすぐに田舎町の風景や森林が車窓に広がります。本当は恋人とのウキウキした旅行になるはずがドタキャンされたうえ、同室の相手はいかつい男性。知的レベルも文化もあわないとラウラは絶望的な気分になります。
しかも、途中で電話してもイリーナはつれない態度。冒頭のパーティーシーンでも、ラウラがイリーナのまわりの似非インテリっぽい風潮になじんでいない様子が見受けられます。異国で孤独で、しかも身の危険を感じながらの長旅。リョーハのなれなれしい様子は、そりゃ僕がラウラでもちょっと警戒してしまいます。
しかし、リョーハは純粋な面をもち、別に彼女をどうこうしようとするわけでありませんでした。そんな彼にラウラの心の殻も次第に壊れていきます。さらにロードムービーらしく、ささやかだけど当人たちには大きなイベントが目白押し。いつしか2人はなんとなく互いが気になる関係になっていきます。このあたりの人情の機微が本当に見事な描写。やっぱり、人間は見た目にとらわれてはいけないなということが、イリーナや途中で乗り込む他の乗客との対比でわかります。いかついリョーハが、イリーナがフィンランド語でしゃべるとすねてしまうのもかわいい。ラストも粋な感じで占めました。
ロシアの寂しく厳しい冬の風景、車掌の愛想のかけらもない不機嫌な様子、何より酒好きなロシア人たち。ゆったりと流れる空間で、こういう旅をしたら本当に心が癒されていくと思います。カンヌのグランプリも納得。ただ、現実だったらリョーハは今や40そこそこで、炭鉱労働者だから徴兵されて戦地にいくのだろうなという思いもぬぐいきれませんでした。この時期にロシアを題材にした映画をみると、どうしてもそっちに思考がいってしまいます。
2023年03月23日
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