作品情報 2021年日本映画 監督:淺雄望 出演:上原実矩、若杉凩、森田想 上映時間:82分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:シネマジャック&ベティ 2023年劇場鑑賞94本
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【ストーリー】
高3の夏。美術部の朔⼦(上原実矩)は写生に出て船を書いているうちに誤って海に転落。溺れている様子を同級生の西原(若杉凩)が描いた作品が全国大会で受賞して、複雑な気持ちになる。さらに、恋の勘違いから親友の栄美(森田想)とも仲たがいしてしまう。
一方、朔⼦の父(川瀬陽太)は若い女性(広澤草)と再婚し、義母は妊娠をしていた。家庭でもなんとなく居場所のない朔⼦に、西原が絵のモデルになってくれと頼んできて…
【感想】
高3は進路も気になるし、家族との関係も微妙になるし、何よりそれらを含めて自分とは何かというアイデンティティの問題に直面することが多いと思います。それらの問題を82分という短めの時間に盛り込んだ脚本はお見事でした。朔子が美術部のためかのこぎりなどを使った工作がうまく、その音とBGMがシンクロするような演出もうならされました。
また、高校生だから確定するにはまだ早いでしょうが、アロマンテック・アセクシャルなりレズビアンだったりする可能性の登場人物もでてきます。実際にそういう性的志向なのか思春期特有の気持ちのブレなのか判りませんが、恋バナで盛り上がる友人たちについていけなくなる彼女たちの気持ちは、アセクシャルの傾向がある僕としては痛いほど分かります。
朔子、西原、栄美の互いを思いつつ、すれ違いもあるところもいい。他人に分かってもらえないなら最初から近づかないで傷つかないほうがいいのか、自分の気持ちなんて他人には絶対わからないのか、それでも有人だったら相手の気持ちを知りたくなるのか。こんなことをストレートに打ち明けられるのはこの時期だからできる特権のようなものでしょう。進路への不安、特に西原の圧倒的才能を見せられた朔子の心の揺れも、やはりこの時期だから美しく描けるもの。「アマデウス」でないですが、大人になってこんな事態に陥ったらちょっとドロドロしちゃいますよね。
一方で、親子関係も綿密に描いています。娘のことを愛しているけど後妻も愛している父親。妊娠中で大変な時期なのに娘に気を遣う義母。朔子は頭がよくそんな2人の気持ちが判ってるがゆえに反抗できずに自分の心がささくれていく。日常の些細なすれ違いを含めて丹念に描写していることに好感をもてました。僕も娘を持つ父親ですが、本当に年頃の娘との距離感は難しいですね。
上原は多部未華子の若いころ、若月は谷村美月の若いころを想起しました。ともにフレッシュな演技で、この年頃の女子を等身大に描いていましたが、巧いと思わされたのは森田です。役柄もありますが、脇役ながら存在感がにじみでてさすがという感じ。また、ベテラン川瀬陽太の父親ぶりもさすがの貫禄。フレッシュな主役と演技派の脇役がかみあって、いいハーモニーになってました。
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