2023年05月29日

TAR/タ―

 ケイト・ブランシェットがカリスマ指揮者になり切り、賞レースを賑わせたのも納得の迫力ある演技。クラシックのことを知っていたらもっと楽しめたのだろうな。現代社会への風刺がすごい傑作です。

 作品情報 2022年アメリカ映画 監督:トッド・フィールド 出演:ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス 上映時間158分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ日比谷  2023年劇場鑑賞170本



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 【ストーリー】
 指揮者のリディア・ター(ケイト・ブランシェット)は女性として初めてベルリンフィルの常任指揮者となったマエストロ。一方でベルリンフィルのコンマス、シャロン(ニーナ・ホス)とは同性愛の関係にあり、幼い娘ペトラ(ミラ・ボゴイェヴィッチ)をかわいがっていた。

 自伝の出版やマーラーの全曲指揮など盛大なイベントを控えプレッシャーをかかえるなか、パワハラ、セクハラめいた言動も音楽界で問題視する向きもあった。アシスタントで指揮者志望のフランチェスカ(ノエミ・メルラン)もタ―の言動に振り回される。そんななか、タ―の元教え子が自殺したことがきっかけで…

 【感想】
 各エピソードがぶつ切り、説明セリフはないうえ、エピソードごとの情報量が満載となかなかとっつきにくい映画。映像だけでなく雑音にも注意しないとならず疲れます。ベルリンフィル、カラヤンといった実在の固有名詞をバンバン使っているので、本当にタ―という人間がいるような錯覚を覚えます。

 欧米の音楽界、芸能界ではセクハラ、性犯罪まがいの行為、パワハラが大きな問題になっていますが加害者は男性というのが多くのパターン。日本でもちょうどジャニーズが大きな問題になっていますよね。本作はタ―が同性愛者の女性でありながら、セクハラ、パワハラ
を繰り広げるというのがより現代風かもしれません。クラシックという完全男性優位な社会で頂点にいたるには自分も家父長的にならないといけなかったのか。示唆に飛んでます。

 一方で、最近「傷つきやすいアメリカの大学生たち」という本を読んだのですが、本作に出てくる音大生はバッハが白人だから演奏しないなど自分のお気持ちが最優先で、ちょっとでも注意されるとパワハラだと居直ります。こういうアメリカの問題もうまくすくいあげています。業界の裏事情もしっかり描かれていきます。

 そしてネットでのキャンセルカルチャーやフェイクニュースもアメリカでは重要な問題。
タ―は得意の絶頂にいたのに、自分の行動がパワハラにあたるとは思っておらず、フェイクニュースにもひっかけられてダメージを受けていく様子が事細かに描かれています。うまいのがタ―を極悪人と描かず、ペトラとの交流をたっぷりみせることで、一見カリスマでも裏では愚かで哀れな女性とも受け止められること。このへんの多面性の描き方はさすがトッド・フィールド監督です。

 エピローグででてくるモンハンの音楽は、タ―が音楽とは何かを向き合った前向きなラストととらえました。権威にまみれるおかしさと、本質を追求する芸術家としての本性。その両方が2時間半でしっかりとみせられます。

 ブランシェットは当て書きだというのもわかるはまりっぷり。実際のチェロ奏者ソフィ・カウアーが主要な役に起用されるなど、音楽映画としてのキャスト、演奏は最高レベル。それだけに繰り返しになるけどクラシックの素養があればもっと楽しめたのにと残念でなりません。オープニングでのクレジットには笑いました。
posted by 映画好きパパ at 06:33 | Comment(0) | 2023年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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