作品情報 2022年日本映画 監督:荻上直子 出演:筒井真理子、光石研、磯村勇斗 上映時間120分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい 2023年劇場鑑賞176本
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【ストーリー】
須藤家は平凡な主婦の依子(筒井真理子)、気弱だが優しい夫の修(光石研)、ぶっきらぼうだが親思いの息子拓哉(磯村勇斗)の平凡な家族。ところが東日本大震災後にパニックになった修が家出をして、そのまま行方不明に。
残された依子は怪しげな宗教にはまり、そんな実家にいづらくなった拓哉も九州の企業に就職し、家に寄り付かなくなった。そんなある日、修が突然、家に戻ってきた。がんと診断され高額な費用がかかるらしい。さらに拓哉が結婚したいと連れてきた珠美(津田絵理奈)は聾唖者。パート先のスーパーに来るクレイマーの老人(柄本明)、嫌味な隣人(安藤玉枝)とのやりとりで依子はどんどん消耗し、いっそう宗教にすがるようになるのだが…
【感想】
人間のささやかな幸せがいかにもろいものかということがよくわかります。また、また荻上作品に必需のユーモアも、登場人物が真剣なことがかえってブラックユーモアになる手法でエッジがうまく聞いていました。
依子の悩み、イライラは夫の失踪を除けば一つ一つはよくあるような話。でも波紋のように重なることで依子の心をどんどんおかしくしていきます。とどめは夫が失踪しただけでなく、平然と家に帰ってきたことでしょう。失踪したことを謝るでもなく、平然と酒や飯を要求する鈍感さ。でも、面と向かって言えないことが自分へのストレスとなって余計に心を閉ざしていく。
依子自身が欠点が多い人間であり、彼女に感情移入できないというのもポイント。珠美に対してはあからさまに障害者であることで差別するのが典型。ただ、それも弱さであり、スーパーの掃除の老女(木野花)との友情をはぐくむシーンなどどは彼女の善良さもあらわれています。結局、人間というのは複層的でかつ強い人はなかなかおらず、宗教のようなものに頼ってしまうことがよくわかります。
筒井の能面のような笑みや信仰のなぞのダンスなどは、もう彼女が主役としか考えられないはまりっぷり。光石のナチュラルなくずっぷり、若手で売れっ子の磯村がここでもベテランたちを相手にしっかりとした演技を見せるのもいい。さらに、宗教関係者にキムラ緑子、江口のり子、平岩紙とすさまじい面子を並べ、出番はわずかだが強烈な印象を残すホームレスにムロツヨシ(最初は分からなかった)とただただ演技合戦にうなるばかり。極めつけは珠美役の津田が実際に聴覚障碍者であり、だからこそできる演技をきっちり見せていること。
演技合戦とよくいうけれど、ちょっとイラっとさせる内容も含めて本当に見ごたえがありました。
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