作品情報 2023年日本映画 監督:北沢幸雄 出演:吉田伶香、藤田朋子、寺田農 上映時間126分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:シネスイッチ銀座 2023年劇場鑑賞179本
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【ストーリー】
福島県いわき市出身で東京で介護の専門学校に通う遙(吉田伶香)は2011年3月11日、地元の親戚の結婚式を欠席して東京で彼氏の健太(兼次要那)と遊んでいた。そのころ、津波で遙の両親、弟、祖母は亡くなり、一人生き残った遙は心に深い傷を負った。
空き家となった実家に住み、地元の老人ホームの職員になったが、古手の入居者、菊田(寺田農)からパワハラを受けるなどしんどい日々が続く。そうしたなか、高校の吹奏楽部時代の恩師で、遙をかわいがってくれた由美子(藤田朋子)が新しい入居者としてホームにやってきたのだが…
【感想】
吉田の演技が決してうまくはないのだけど、一生懸命頑張っていることが伝わってきて、遙というヒロインに見事にマッチしていました。遙はまだ10代だけど家族を全員津波で失い、しかもその時に自分が遊んでいた負い目に押しつぶされそうになります。自助グループに参加した彼女が、メンバーとともに自分の思いを語る場面がありますが、震災から10年以上たった今見てもかなりしんどく、ハードな内容。現実にこうした思いをたくさんした人がいるというのも考えさせられます。
一方、老人ホームは職員が少ないうえ、入居者のパワハラ、セクハラ、さらには老いらくの恋のもつれ、親を老人ホームに入居させたあと音信不通になる子供など問題が山積み。それに耐えられるタフネスさが必要ですが、もともと壊れかけていた遙にとって、ますますしんどいことばかりでした。実際のホームでもこうした入居者たちの人間模様があるのでしょう。自分が年取ってホームに入ったときのことを想像すると、かなりしんどくなりました。
それが由美子の入居によって、遙に生きる希望が少しずつでてきます。由美子は認知症の症状がでて、夫の亮(宮川一朗太)の懸命の老々介護も追いつかない状態。それでも、わが子のようにかわいがっていた遙との再会で、ちょっとずつ表情も柔らかくなっていきます。もちろん、単純に再会で良くなるわけでなく、遙をめぐる状況もいろいろ厳しいのですが、人生つらいだけでなく、ほっとした喜びがあるということが遙にも分かってきた。みている僕にとっても、年を取っても人間は懸命に生きているし、それを助ける若い世代の人もいる。認知症や重病などで体や心がこわれることがあっても、生きていくことは素晴らしいかもしれないと思わせてくれました。
脚本を手掛ける北沢監督も70歳近いので、こうした高齢者に寄り添ったシナリオがかけたのでしょう。いっぽう、遙と健太についての描写はちょっとくどい部分もしました。それでも、遙の心がこわれそうになってから、成長していくまでの動きをみせるには良い塩梅だったのかもしれません。
テーマはしんどいですが、吉田のフレッシュな演技と寺田、藤田、ホームの所長役の斎藤暁らベテランの濃厚な演技がほどよく調和。さらに、老人たちの意図せぬユーモラスな描写もしっかり盛り込んで、緩急がついていることから長時間でも飽きません。若手ではケアマネージャー役の福原稚菜のスマートな対応にグッときました
劇中、震災の津波のシーンなどが流れますが、本当にあれから10年以上たったわけです。風化させないとともに、高齢者社会日本の現実がわかるためにも、上映館は少ないけれど多くの人に見てもらいたい作品です。なお入場者プレゼントの柏屋薄皮饅頭はおいしかった。
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