2023年06月13日

怪物

是枝裕和監督、坂元裕二脚本という世界的レベルのスタッフで映画ファンなら見逃せない一本。人間の多面性と子供の光という両者のこれまでの作品を彷彿とさせながら、濃厚な仕上がりになってます。ただ、見ていてどっと疲れたのも事実。

 作品情報 2023年日本映画 監督:是枝裕和 出演:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢 上映時間125分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:ムービル  2023年劇場鑑賞189本



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 【ストーリー】
 シングルマザーの麦野早織(安藤サクラ)は小学生の息子湊(黒川想矢)が物をなくしたり、傷をつけたりして不審な言動が気にかかる。問い詰めたところ担任の保利(永山瑛太)に暴言や暴力を振るわれているという。怒った早織は学校に乗り込むが、校長の伏見(田中裕子)ら学校側のマニュアル的な対応にさらに激怒。

 そこへ、保利から湊がクラスメイトの星川依里(柊木陽太)をいじめていると逆にいわれる。早織は依里に確かめるが、湊とは友人同士だという。早織の怒りは頂点に達して…

 【感想】
 物語は3章仕立てで、早織からの視点、保利からの視点、湊からの視点でそれぞれ成り立っています。別の視点からみると、同じできごとのはずなのにがらっと変わって見える、カンヌで脚本賞をとっただけのあるうまい作品です。

 1章だけみると保利をはじめ学校側が怪物にみえます。一方、2章だけみると麦野親子が怪物にみえます。そして、予告にでもあるように3章で怪物がだれか観客に突きつけられることになります。骨格となるストーリーは学校でのいじめとそれに振り回される保護者、教師ということで実際にもありそうな話です。しかし、それぞれの視点をいれたことで本当に複層的にみえるのだからすごい。

 世間からすると悪者を作って批判するのは簡単です。特にこのように学校側がいじめを軽視、隠ぺいしようとするのは現実でもあるわけですから。しかし、そんなに簡単に善悪に割り切っていいのか。怪物なのはむしろ顔の見えない世間や、自分は善人と思っている第三者ということが突きつけられます。

 舞台が長野県諏訪市という地方都市のため、悪意のない噂のネットワークが日常から蔓延しています。一方で、子供たちですらいじめが起きているときに大部分は傍観して真実を隠します。いわんや大人はどうでしょう。いじめグループが単純には一番悪いということですけれど、本人は悪いと思っていないで無責任な噂を流すほうがはるかにひどいのではないでしょうか。その意味では是枝、坂本作品でおなじみの演技派役者陣のなかでも、出番は少ないですけど高畑充希がこれまでとの役柄の違いもあり非常に印象に残りました。

 また、田中好子も隠ぺいを図る管理職というこれまでと違った権力者の役柄。しかし、良心のゆらぎがあるのか、ところどころで登場人物に助け舟をだすというのも物語を奥深くしています。何より是枝作品の特徴といえる子役の自然さ。そして、重たい話だけど決してつぶされることがなく、一縷の光を放つような子供の未来を信じる姿勢も心強い。故・坂本龍一の音楽、「万引き家族」はじめ数々の邦画の秀作を手掛けている近藤龍人の撮影などスタッフもみごと。自然の緑、効果的な雨や水も上質な作品だと実感させます。

 でも、見終わった後本当に疲れたし、結局のところ子供に我々の醜さからの脱出、怪物からの脱出を託すという責任放棄で終わってしまった残念感もありました。このへんは見る人の好みでしょうけど。
posted by 映画好きパパ at 06:03 | Comment(0) | 2023年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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