2023年06月14日

渇水

 貧困問題をこれだけのキャストで真正面から取り上げたのは貴重。子役2人をはじめ出演者の演技が素晴らしく、見ごたえ十分の邦画でした。

 作品情報 2022年日本映画 監督:高橋正弥 出演:生田斗真、山崎七海、門脇麦 上映時間100分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい  2023年劇場鑑賞190本



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 【ストーリー】
 水道局の職員、岩切俊作(生田斗真)は滞納者の水道を停水するのが仕事。後輩の木田(磯村勇斗)が愚痴まみれなのに黙々と作業をしている。家庭では父親に虐待されて家族との付き合い方がわからず、妻の和美(尾野真千子)は幼い息子を連れて実家に帰ったままだった。

 記録的な猛暑の中、岩切たちはシングルマザーの小出有希(門脇麦)へ督促するが払えないといわれ、停水しようとする。そこへ幼い姉妹の恵子(山崎七海)と久美子(柚穂)が帰宅し、いったんは停水をやめた岩切だったが…

 【感想】
 原作小説は1990年のバブルの匂いが残っているころに発表されていますが、30年以上たった今でも色褪せないのはすごい。ネグレクトされる幼い姉妹が懸命に生き、大人を信じられなくても母親だけは信じようとする姿は見ているこちらの心を痛めます。周囲の大人はうまく助けられずに事態がこじれていくだけというのもリアル。

 木田は空気も日光もただなんだから水も無料にすればいいと言います。しかし、劇中に水道局員がいうように、清潔な水を各家庭に届けるには浄水、消毒、配管工事など莫大なカネがかかります。だからそんなのは夢物語にすぎません。また、岩切たちが回る滞納者たちも、自分勝手な言動が目立ち、彼らの仕事も当然のように見えてきます。

 そこへ、実母からネグレクトという虐待を受けている2人の純粋さを対比させます。涙も水だからもったいないとまで追い込まれる幼い子供は悲痛のひとこと。僕はそれでも停水したうえに児童相談所に届けるのが正解だろうと思いますが、役人として家庭の事情に立ち入らないという心理も理解できます。でもそういったはざまにおきて幼い子が犠牲になることが、この豊かな日本で現実にあるというのがなんとも世知辛い。岩切だけでなく近所の人や学校がもう少し踏み込めばいいのだけど、コンプラ重視でおせっかいに対しては不寛容な今の日本社会の欠点が如実に表れています。

 また、猛暑続きで水不足。登場人物たちの心理がじりじりと消耗していく雰囲気も良くでています。。渇水というテーマは物理的な水不足だけでなく、心理的にからっからになった岩切や有希を表しているのがよくわかります。そして、そのなかでもフィルム撮影によるひまわりの花とか、からっからのプール、公園の水飲み場といったアイテムが効果的。この夏に日本のどこかで起きても不思議ではないと思わされるのです。そして岩切がクライマックスに見せる行動は、大部分の日本人にとって考えさせられる重たい荷物といえましょう。

 生田が疲れ切った公務員のような役をやるというのは意外ですが、ジャニーズの俳優も最近は役柄を広げています。そこへ売れっ子の磯村がつかずはなれずのいい距離感。また、門脇は最初は役柄的に美人すぎるかと思いましたが、やつれきって次第に育児を放棄していく姿は美人ゆえに凄惨さがましました。また、滞納者などのちょい役に宮藤官九郎、柴田理恵といったそれなりにネームバリューのある人がそろっているのは、白石和彌がプロデューサーだからでしょうか。そして、なんて言っても二人の子役。「怪物」でも思いましたが、最近の子役の演技レベルは半端ないと思います。とにかく2人に幸あれと思ってやみません
posted by 映画好きパパ at 06:02 | Comment(0) | 2023年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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