2023年07月24日

キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩

 戦時中のポーランド、現在のウクライナ西部を舞台に同じ建物に住む、ポーランド、ユダヤ、ウクライナ人3家族の苦難と絆を描いたヒューマンドラマ。正直、膨大なテーマだけにもうちょっと上映時間を伸ばしても、終盤をもっとじっくり描いてほしかった気がします。

作品情報 2022年ポーランド、ウクライナ映画 監督:オレシャ・モルグネツ=イサイェンコ 出演:ヤナ・コロリョーヴァ、ポリナ・グロモヴァ、エフゲニア・ソロドヴニク 上映時間122分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:シネスイッチ銀座  2023年劇場鑑賞244本



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 【ストーリー】
 1939年ポーランド東部の町スタニスワヴフ(現ウクライナ)。ユダヤ人のハーシュコウィッツ家のアパートメントにポーランド人のカリノフスカ一家、ウクライナ人のミコライウナ一家が越してくる。最初は人種の違いでギクシャクしていた3家族だが、いずれも幼い娘がおり、ピアノをミコライウナ家の母親ソフィア(ヤナ・コロリョーヴァ)が教えたことから音楽を通じて親しくなる。

 だが、第二次大戦が始まりソ連軍が侵攻してきた。カリノフスカ家の父親ヴァツワフ(ミロスワフ・ハニシェフスキ)はポーランド軍の将校で戦地に赴く。やがてソ連軍は妻のワンダ(ヨアンナ・オポズダ)も政治犯として連行。難を逃れた幼いテレサ(クリスティーナ・ウシーツカ)を、ソフィアは自分の娘として隠しとおす。さらに2年後、ナチスドイツが攻め込みユダヤ人狩りを始めて…

 【感想】
 題材からしていくらでも大げさに作れるのですが、ウクライナ出身の女性監督、オレシャ・モルグネツ=イサイェンコはドキュメンタリー畑の出身ということもあり、できるだけ抑制的に描きます。観客の情報も登場人物と同じものに絞られており、例えば戦地にいったヴァツワフやシベリアに連行されたワンダがどうなったのか、最後まで知らされることはありません。そのほかの登場人物も、いったい何でこんな苦難にあうのか具体的な説明はされず、当時の庶民同様とまどうばかりです。

 思いもよらず他の2家族の娘を我が子として隠し通すことになったソフィアの苦労はいかほどだったか。食料もたりずに腐った野菜を何とか食べたり、憎い敵の子供にピアノを教えるかわりに食べ物も恵んでもらったり。それでも決して見捨てることがなかったのは本人の人間的強さと音楽の力、戦前に結んだ子供を中心とする友情だったのでしょう。

 一方、大人が深刻でも子供はそこまでわかりません。ソフィアから外に出てはいけないといわれても退屈のあまり出てしまうなど、自ら危険をまねく事態もでてきます。さらに、ソ連もナチスドイツも子供だからと言って容赦することなく平然と命を奪います。映画の撮影はウクライナ戦争以前に行われていますが、第二次大戦から70年以上たっても、同じウクライナでむごい目にあっている子供たちが大勢いることを思うと、なんとも耐えがたい気分になっていきます。

 ところどころに1980年代のニューヨークのシーンがあり、子供たちがどうなったのかが小出しでわかるようにしていますが、この情報もかぎられています。また、1945年以降にどうなったのかをもうちょっと描いてほしかった。この部分がないと、結構もやもや感が残ってしまうのですよね。

 予告編でも流れる幼い女の子たちの合唱は平和な時代では心の慰め、家族の絆の象徴でした。しかし、それすら奪われる時代の恐ろしさ。戦争と平和について考えさせられる秀作です。
posted by 映画好きパパ at 06:30 | Comment(0) | 2023年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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