作品情報 2022年アルジェリア、フランス映画 監督:ムニア・メドゥール 出演:リナ・クードリ、ラシダ・ブラクニ、ナディア・カシ 上映時間99分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい 2023年劇場鑑賞250本
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【ストーリー】
アルジェリアで一流のバレリーナを目指しているフーリア(リナ・クードリ)は、大事な大会の前日、強盗に襲われて足に大けがを負った上、PTSDでしゃべれなくなってしまった。絶望のどん底にいた彼女だが、リハビリ施設で同じようなしゃべれなくなる悩みに苦しむ女性たちとしりあう。
やがて、フーリアが元バレリーナとわかり、彼女を講師にバレエのレッスンが始まる。それは声も夢も奪われたフーリアにとり、生きる情熱を取り戻すことでもあった。
【感想】
予告編や公式サイトから、夢を奪われたヒロインが取り戻していく心暖かなヒューマンストーリーだと思っていました。陽光のきらめきや美しい海辺で、力強い音楽と美しいダンスが流れているわけですから。しかし、ムニア・メドゥール監督は前作の「パピチャ 未来へのランウェイ」で、残酷な現実をとことん見せた監督です。自らアルジェリアで過酷な体験をした女性監督が、甘ったるいウェルメイドな作品で終わらせるわけがありません。
フーリアはアルジェリアの若い世代を象徴する強い女性。バレエスクールの友人たちと青春を謳歌し、ブルカもかぶらず西洋文化を満喫しています。フーリアを女手一つで育てた母親のサブリナ(ラシダ・ブラクニ)も、イスラム圏でシングルマザーへの視線が厳しい中、娘に自由という意味の名前をつけて、自立した女性として育てようとします。
しかし、そんな自由も社会が安全だからこそ許されるもの。現実は厳しく、逆恨みに近い強盗に逢った上、警察も女が夜に出歩くのが悪いとろくに捜査をしてくれません。また、フーリアの親友のソニア(アミラ・イルダ・ドゥアウダ)も自由を求めたゆえに、厳しい現実にぶちあたってしまいます。フ―リアが事件に巻き込まれたのは、ヤミの闘羊試合にカネをかけていたからでした。そういう意味では彼女は完全無欠な聖女ではありません。でも、カネをかけたのも遊興費ではなく、社会の貧しさ故と考えるとやりきれなくなります。
話は飛びますけれど、最近の日本のSNSで排外的な風潮が高まっているのをみると、人間個人個人をきちんと理解せず、高圧的で権威主義的な人間というのが日本にいかに多いかと暗澹たる気分になりました。フーリアやソニアが何に苦しみ、何を求めているのかまったく理解しようとしないわけでしょうから、世界の分断が日本でも起きていることを感じます。
それはさておき、絶望のどん底にいたフーリアは手話とダンスで仲間との絆を結び、次第に人間らしさを取り戻してしまいます。この2つは弱者の武器とでもいえるでしょうか。どんなに虐げられ、苦しんでも人間の魂はそう簡単に押さえつけられない不屈さがあるということが伝わってきます。こういう時代だからこそ、重要な意味のある作品といえましょう。ろう者として初めてアカデミー賞を受賞した「コーダ」のトロイ・コッツァーが製作総指揮というのも、重みがあります。
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