作品情報 2021年ドイツ映画 監督:フィリップ・シュテルツェル 出演:オリヴァー・マスッチ、アルブレヒト・シュッフ、ビルギット・ミニヒマイアー 上映時間112分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマみなとみらい 2023年劇場鑑賞251本
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【ストーリー】
ロッテルダム港からの豪華客船で、アメリカに亡命する公証人ヨーゼフ・バルトーク(オリヴァー・マスッチ)は久々に妻のアンナ(ビルギット・ミニヒマイアー)と再会する。だが、バルトークの精神は壊れかけていた。
ウィーンで公証人をしていたバルトークは、1938年ナチスがオーストリアを併合した際に逮捕される。彼が管理していた貴族らの秘密口座を知りたがったゲシュタポのフランツ(アルブレヒト・シュッフ)はバルトークを監禁し、だれとも会わせない孤独な状態にして精神的な拷問にかけようとする。バルトークはたまたま見つけたチェスのルールブックをもとに、チェスの棋譜を思い浮かべて正気を保とうとするのだが…
【感想】
オーストリアを代表する作家だったツヴァイクは反ユダヤ主義の激化を嫌い、イギリスに亡命。その後、各地を転々として第2次大戦が始まった1942年に妻とともに自殺します。主人公がナチスの精神的な拷問に必死になって耐える姿はツヴァイク自身とも重ねられました。もっとも、彼は自殺という悲劇的な死を向かえるわけですが。
映画は1938年のウィーンでの拷問と、豪華客船の様子が交互で描かれます。占領が始まるまで自信たっぷりで裕福なインテリだったバルトークが、ナチスの精神的な拷問でどんどんダメージを受けていく様子は観ていてつらい。インテリですし、口座番号を聞き出すために肉体的な拷問よりいいとナチスも考えたのでしょう。人間の悪意の底知れなさが分かります。そして、ある種の肉体的拷問のなんともいえない残酷さ。
一方、豪華客船ではたまたまチェスの世界チャンピオンが乗り合わせており、バルトークとチェスをすることになります。僕自身、チェスは詳しくないのだけど日本人にとっての将棋のようなものでしょうか、精神的な拷問に耐えるためには知的なゲームであるチェスというのが最適なのでしょう。そして、本作はある重要な仕掛があり、ナチスというより観客に対して仕掛けられます。そのためにもチェスというのは重要なモチーフになります。
オリヴァー・マスッチは「帰ってきたヒトラー」のヒトラー役で日本でもおなじみですが、ドイツ人俳優はナチスだったり反ナチスだったりいろいろな役をやらないとならないのは大変だな。豪華客船やウィーンでバルトークが監禁されたホテルなど、クラシックな舞台美術は印象的。ドイツ映画らしい陰惨な感じが終始つきまといますが、世の中のどこかで戦争が起きている限り、こういう話は起きるのでしょうね。
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