2023年08月09日

星くずの片隅で

 コロナ禍の香港で苦労する貧困層の日常を描いた社会派。心優しい人たちばかりが損をして、でも助け合う姿は胸をうちます。現実の厳しさもきっちり描いていて、世の中はひどいけど、同化してはならない。とにかく主人公たちが愛おしくなりました。

作品情報 2022年香港映画 監督:ラム・サム 出演:ルイス・チョン、アンジェラ・ユン、トン・オンナー 上映時間115分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズシャンテ  2023年劇場鑑賞263本



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 【ストーリー】
 コロナ禍の香港。清掃業を営む独身の中年男サク(ルイス・チョン)は高齢で足の悪い母(パトラ・アウ)の介護もしており、毎日生きるのに精いっぱいだった。ある日、同じアパートに住むシングルマザーのキャンディ(アンジェラ・ユン)がバイトとして雇ってくれと頼みに来る。

 一人で働くのが精一杯と最初は断ったが、家賃滞納で追い出されそうなキャンディと幼い娘のシュー(トン・オンナー)の姿を見て採用を決める。だが、生活に困ったキャンディには万引き癖があった。それを知ったサクはある提案をするのだが…

 【感想】
 共産圏なのに日本以上に格差社会の香港。コロナで経済がとまり働いていたカフェを首になったキャンディ。マスクも手に入らず、自分の下着を売りにだすところまで追い詰められています。一方で金持ちは平然と隔離生活を楽しんでいます。そんなキャンディ母子に救いの手をだすのは、自分の生活も決して楽でないサクでした。

 キャンディがコンビニでアイスを万引きしたサクは複雑な思いでそれを見つめています。しかし、クリーニングに行った先の金持ちの家で、山積みされていたマスクを万引きしたことには激怒しました。コロナ禍のクリーニング作業は、特にまだまだ未解明な時期には決死の覚悟がいるのに周囲からは煙たがられる仕事。でもサクは仕事にプライドを持ち、だからこそキャンディを許せなかったのです。しかし、幼い娘にろくにマスクもつけさせられない実情もしっていて、一方で金持ちの家には買い占められているのですから、なんとも複雑な気分になっていきます。コロナで清掃活動というのは無くてはならないエッセンシャルワーカーなのに収入が少ないというのもリアルっぽい。

 言葉遣いは荒く、口下手なサクですが根の優しさはキャンディとシューにも理解されていき、しだいに3人は仲良しになっていきます。恋人でも家族でもない不思議な関係が心地よい。しかし、貧しい人たちがやっとの思いで手に入れようとした幸せが長く続くわけはありません。また、言葉はきついですが貧しいのには理由があり、愚かな行動をとってしまうのも原因になるわけです。3人が仲良く平穏な暮しをするにつれ、静かな画面なのに観ているこちらの緊張感はどんどん高まっていきます。ラム監督は本作が単独監督デビュー作ですが、演出は非常にうまい。

 また、サクと老いた母親の関係も、今年母親を亡くした僕には響きました。互いに思いやっているのに内心は照れていることもあり、口は悪くなってしまいます。一方、介護のために自分の人生は犠牲になっているというもやもや感もでてしまいます。このあたりの人情の機微は本当に素晴らしく、自分の心にぐいぐい入ってきました。

 ルイス・チョンの不器用な中年男ぶりは彼の新境地でしょう。また、アンジェラ・ユンの清楚だけど負けん気の強い美人ぶりは、デビューしたころの、のんを思い出しました。子役の演技が多少、いかにもという気がしましたけど、主役2人に母親役のパトラ・アウがあまりにも自然で気になりません。また、香港脱出をする人が増えているなどさりげなく、今の香港の課題が盛り込まれていますし、ごく日常の風景だけど朝日のきらめきや夜の下町など丹念なショットが随所に盛り込まれていること、日本のコスプレ好きのキャンディーの鋭いファッションセンスも素敵な作品でした。
posted by 映画好きパパ at 06:14 | Comment(0) | 2023年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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