作品情報 2022年韓国映画 監督:チョン・ジュリ 出演:キム・シウン、ペ・ドゥナ、チョン・フェリン 上映時間138分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:シネマート新宿 2023年劇場鑑賞301本
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【ストーリー】
地方都市全州市の女子高生のキム・ソヒ(キム・シウン)は大手通信会社の子会社のコールセンターで実習生として働き始める。実習生といえども他の社員と同じ仕事をさせられるのに、サービス残業は当たり前、しかも約束した賃金は理由をつけられ削られていく。明るく友達思いだったソヒは、ブラック企業でパワハラを受けてどんどん消耗していく。
全州警察のオ・ユジン刑事(ぺ・ドゥナ)は、本庁のエリートだったが、ある事情で地方警察のチーム長をしている。仕事もやる気はなく、本庁に戻る日のことを考えていたが、ソヒのケースを担当することになる。彼女のことを調べていくうちに…
【感想】
地方都市の女子高校生が内定先の企業で実習中にパワハラを受け、自殺した実際の事件をモデルにしています。ダンス好きで友達もいっぱいいた普通の女子高生が、ブラック企業で心身をおかしくしていく。だけど、学校も両親も「せっかく内定もらったのだから頑張れ」とばかりの対応。学校のカリキュラムに実習が入っているため、仕事を辞めたら高校も退学となってしまう。友達も様子がおかしくなった彼女から離れていく。「ヘル(地獄)朝鮮」と言われるように韓国の若者の失業率は高いことが社会問題になっています。ソウルの大卒ですら大変なのに、まして地方都市の高卒ならば悲惨な状況になっていることが背景にあります。
本作が絶望的なのは巨悪がいないこと。ブラック企業も下請けなので親会社からのきついノルマを果たそうと必死。高校も就職率によって補助金が決まるため、内定を辞退されたら困ってしまう。警察や労基署も難しい案件は放置します。だれもが少しずつ悪い結果、悲劇へとつながっていく。
会社の上司も担任も両親もおそらく普通の人なんでしょうけれど、狂ったシステムの前に逆らいようもない。例えばナチスとか欲深い権力者が悪役だったら観客の怒りはそちらにいきますが、本作は怒りの矛先がどこにもいけない。もしかすると日本でもこういうところがあって、自分が加害者になってしまうかもしれないという怖さがありました。
特に両親は生きているころにきちんと娘と向き合い、悩みを聞いていればいいのに、自分たちもさほど裕福な生活でないために、子会社とはいえ大企業のグループ社員になれることが、人生で最も重要で嫌な仕事を我慢してでもやれと言いたかったのでしょう。この親子の意識の違い、断絶もなんとも悲しい。
とにかく、ノルマ、数字で何もかも決められる社会がおかしいのだけど、これは韓国だけでなく日本をはじめ世界のあちこちで起きていることでしょう。また、大人は自分よりもあいつが悪いと責任を押し付けあって、その結果、力の無い子どもが犠牲になってしまう。なんともやりきれなさでいっぱいになります。
ぺ・ドゥナは彼女でしかできないよう力強い存在感をみせてくれますし、新人のキム・シウンが決して美人ではないのに、この年の純粋ながらの美しさ、そしてそれがぼろぼろに崩れていく大人の汚さとの対比をみせてくれます。ライティングやサンダルなどの小道具も含めた演出も素晴らしい。
唯一良かったのは韓国でこの映画が話題になって、高校生の実習についての法規制が強化されたこと。ヒロインの名前がソヒといいますが、マスコミなどでは「次のソヒ防止法」と呼ばれているそうです。韓国では映画の力が日本よりはるかにあると思わされました。
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