2023年09月19日

福田村事件

 関東大震災のときに朝鮮人が虐殺されるなか、千葉県福田村で四国から来た行商人の一行が地元自警団らに殺害された事件の映画化。このテーマを取り上げた制作陣には敬意を表しますが、それゆえに歯がゆいところもありました。

 作品情報 2023年日本映画 監督:森達也 出演:井浦新、 田中麗奈、永山瑛太 上映時間136分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:テアトル新宿  2023年劇場鑑賞314本



ブログ村のランキングです。よかったらポチッと押してください
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村


 【ストーリー】
 大正12年、朝鮮で教師をしていた澤田智一(井浦新)と静子(田中麗奈)夫妻は、ある事情で教師を辞めて智一の故郷の千葉県福田村に帰ってくる。村長で智一の幼馴染の田向(豊原功補)は歓迎するが、2人の同級生で在郷軍人会の分団長、長谷川(水道橋博士)をはじめ、村人たちはハイカラな夫婦を冷ややかな目で見ていた。

 そのころ、四国から沼部新助(永山瑛太)ら一行15人が、薬の行商で千葉にやってきた。一行の中には赤ん坊もいたが、被差別部落民の彼らは生活のため各地を回って稼がざるを得なかった。そして、関東大震災が起きる。内務省の通達もあり、朝鮮人が井戸に毒を入れたなどのデマが信じられる中、一行は福田村で船頭の田中倉蔵(東出昌大)とささいな口論になり…

 【感想】
 ドキュメンタリー畑の森監督の劇映画デビュー作。ただ、荒井晴彦が共同脚本になっているせいか、物語の半分近くを澤田夫婦や、夫が出生中に倉蔵と不倫している島村咲江(コムアイ)など村内のねっとりとした人間関係を描写します。クライマックスで村人たちが暴動に加わったり、止めようとする背景を描くためは効果的とはいえ、被害者である沼部たちの描写が少なくなってしまったのは欠点でした。

 何より、井浦、田中、東出といった人気俳優は虐殺を止める側で、エキストラを含めた田舎の愚かな村人が日頃の不満や、在郷軍人たちの扇動もあって虐殺を行う側と二分してしまいます。観客も井浦たちイケメン、美人の俳優を応援しますし、、自分はインテリで虐殺は悪いと思っている側にたってしまうのですから、明らかに村人たちは頭の足りない悪役。自分がこうした虐殺をする側という発想がうまれないのです。「あしたの少女」をみたさいに、自分が加害者になっているかもしれない恐怖があったけど、本作の場合は悪いのはあいつら、で自分は関係ないと思えてしまうのですね。

 当時は内務省=警察が陰で扇動したり、お上に逆らえない新聞がデマを流したりしていました。終盤、自分たちが殺した相手が日本人だとしった長谷川がショックを受ける場面もありましたが、結局、悪いのは国家、そして、それに扇動される愚かな田舎者という構図を補強するばかり。むしろ、今のほうがSNSにフェイクニュースはあふれているし、だれもがデマを流して信じてしまう時代なんだから、むしろ井浦たちが虐殺に加わる構図にして、主人公に見えても人間が集団心理に巻き込まれるととんでもないことを起きるとすればよかったのにと思えてなりません。

 関東大震災でいえば松野官房長官や小池都知事が朝鮮人犠牲者をなかったことにするような歴史修正主義に動いているわけで、今にも通じる恐ろしい話を取り上げているのになんとももったいなかった。ついでにいえば、内務省の通達を流したのは正力松太郎で、のちに読売新聞の社主になる男です。本作では千葉日日新聞の虐殺を流す報道部長(ピエール瀧)とそれに反対する女性記者(木竜麻生)の対立もありましたが、どうせなら読売新聞の責任を追及すればよかったのにとも。

 それはさておき、森監督の演出でうまかったのが、村人が行商人たちを虐殺する場面で、陣太鼓のBGMを流すこと。そこだけみればきちんとした活劇になっているのですよね。もちろん、悲劇なんですが哀しいBGMでなく陣太鼓を流すことで、村人たちの高揚した気分がよく描けていました。前半の村の部分はたるいですが、その分、後半にいっきに爆発します。2時間超えの上映時間も気にならず、多くの人にみてもらいたい作品でした。


posted by 映画好きパパ at 06:06 | Comment(0) | 2023年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。