作品情報 2022年日本映画 監督:平波亘 出演:中井友望、山脇辰哉、安藤聖 上映時間93分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:新宿K’Sシネマ 2023年劇場鑑賞362本
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【ストーリー】
女子高生の内田果歩(中井友望)は若年性認知症の母貴子(安藤聖)を介護しながら高校に通っている。父親は既に亡くなっていてろくな収入源がなくて、その日の食事にも困るありさま。
同級生でやはり貧乏な家の上野輝之(山脇辰哉)は明け方の新聞配達のバイト中、徘徊する貴子を必死に探す果歩の姿を見つけ、彼女のことが心配になる。自分の家庭のことを話すのは恥とばかりに、かたくなに協力を拒む果歩だが、徘徊していた貴子を輝之が助けたこともあり、次第に距離は縮まる。だが、携帯電話代すら払えなくなり、とうとう果歩はいかがわしいバイトで金銭を得ようとする。それをしった輝之は…
【感想】
思春期ならではの恥の意識で助けを呼べない少女と、それを食い物にする大人たち。日本の福祉は申請主義であり、自分で助けを求めないとどん底に落ちる一方なんですよね。果歩のバイト先のコンカフェも最初は高校生は雇えないといっておきながら、美少女の果歩が高校中退したフリーターだと嘘をつくと、ほいほいのっかってしまう。
最低に醜悪だったのが、ベテラン・山中崇演じる客の長谷川。果歩に5万円を渡して彼女を買おうとする。しかも、輝之がとめにはいると「カネのないお前に彼女は助けられないだろう」と、一見、紳士的な態度は崩さず暴言をはく。でも、本当にそうなんですよね。カネのない正義では果歩は救えない。でも、カネがあっても本人の意に反して犯罪に手に染めてしまうと心が救えない。にっちもさっちもいかない現実に吐き気がします。この山中の演技は素晴らしい。
さらに、果歩の友人(西本まりん、詩野)が悪意なく、貧乏人や人の道を外れた同級生をdisっているのも心がいたい。長谷川のような違法行為はほとんどの人がしないでしょう。でも、ごく普通の家庭に育った高校生にとって、貧乏も犯罪も自己責任の結果。そもそも、自分で稼いでないのに貧乏をなぜバカにできるのか。果歩がもし普通の家に産まれていたら、彼女らとも親友のままでいられたでしょう。普通の人の無意識な差別というのも観ていてしんどかった。
また、コンカフェの先輩店員・花(都丸紗也華)や常連客の東(安楽涼)もリアル。花が自分も風俗をしているのに、他の風俗嬢と違うと自分に言い聞かせている哀れさや、東が自分の顔にコンプレックスを持ち(演じている安楽が僕よりもイケメンなので、ちょっと説得力に欠けましたが)、女性と触れ合う方法がコンカフェでカネを払って、しかも長谷川と違って一緒にマクドナルドに行きたいだけという切なさにも胸を打たれます。長谷川のようなエリートサラリーマンが好き勝手する一方で、弱者はあがいてもぬけれない。厳しい現実がでています。
ここまで暗い社会派のように感想を書きましたが、根本のところに果歩と輝之のボーイ・ミーツ・ガールがあるので、実は上映後の感想はさわやかな部分もありました。どん底の部分でエンディングにするというのも手なんでしょうけど、ラストの二人の掛け合いは本当に尊い。上映後の監督のトークショーで撮影当日に急遽変更になったシーンだと聞いて驚きました。また、認知症なゆえに心にピュアなところを残している貴子との母娘関係もなんとも切なく、かつ心を温かくしてくれます。
また、物語のところどころに登場して、リアルで暗い部分をぼやかしてくれる4番さん(合田口洸)の存在は賛否あるみたいですけど、僕はあり。音楽映画の祭典「MOOSIC LAB」の出品作だそうですが、合田口が劇中、何度も歌う曲はこれまたこの映画をエモいものにしてくれます。ちょっと盛り上げようとするBGMがあったのは好みに合いませんでしたが、彼の存在と音楽がこの映画をさらに引き立ててくれました。
中井は「かそけきサンカヨウ」「少女は卒業しない」など最近、小予算の高品質な映画の出演が目立ってますけど、本作は初主演にふさわしい上質な作品。そして、小野周子の脚本も彼女に寄せて書いた部分もあり、果歩という人間が本当にそこにいるようでした。NHKの朝ドラまんたんで話題を呼んだ山脇も高校生としか見えません。平波監督は前作の「餓鬼が笑う」から大きくイメージチェンジして、リアルで切ないストレートな作風に仕上げました。ぜひ多くの、特に果歩たちの同世代の高校生や教師に見てほしい作品です。
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