2023年10月29日

ヨーロッパ新世紀

 外国人差別、地域の排他性などグローバルで起きている問題をざらついた感覚で取り上げたルーマニア映画。クライマックスともいえる17分間の長回しの村民集会は圧巻。緊張感を高める長回しとはかくあるべしと思いました。

 作品情報 2022年ルーマニア、フランス、ベルギー映画 監督:クリスティアン・ムンジウ 出演:マリン・グリゴーレ、ユディット・スターテ、マクリーナ・バルラダーヌ 上映時間127分 評価:★★★★(五段階) 観賞場所:横浜ムービル  2023年劇場鑑賞369本



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 【ストーリー】
 鉱山の閉鎖で貧しいルーマニア・トランシルバニアの山村。村からドイツに出稼ぎに行っていたマティアス(マリン・グリゴーレ)は工場で人種差別的なことを言われて喧嘩になり、故郷に戻ってきた。だが、妻のアナ(マクリーナ・バルラダーヌ)との間は冷え切っているうえ、幼い息子のルディ(マーク・エドワード・ブレンヤシ)が森で何かを見て以来、口が聞けなくなっていた。

 苛立ったマティアスは元カノで、村でパン工場の社長をしているシーラ(ユディット・スターテ)と復縁しようとする。シーラは工員がいないことに頭を悩ませ、スリランカ人を採用することにする。だが、閉鎖的な村人たちはアジア人が来ることに反対し…

 【感想】
 閉鎖的な村人による人種差別的な言動というのは、「福田村事件」も最近ありましたが、世界中で現在進行形で起きている話。日本では国自体が閉鎖的なところもあり、最近、こうした排他的な言動がネットでも目につくようになりました。

 閉鎖的と書きましたがトランシルバニアはロシア、オスマン帝国、オーストリア帝国などに囲まれた歴史があり、言語はルーマニア語、ハンガリー語、フランス語、ドイツ語、英語が飛び交っています。住民も多数派のルーマニア系と少数派のハンガリー系、ドイツ系がいます。いわば、多民族の地域でした。本作の字幕もルーマニア語は白、ハンガリー語は黄色、それ以外の字幕はピンクとしているうえ、意図的に日本語訳をしていない部分もあり、驚き感心しました。

 しかし、それは白人だけにすぎず、アジア人が来ると一致団結して排他的行為に及ぶのがグロテスク。住民の多くはドイツなどに出稼ぎにいって、地元の工場が工員を募集しても給料が安いとだれも応募しないくせに、いざ外国人がきたら「地元の雇用を奪う」なんて反対するのは日本も似たようなもの。しかも、スリランカ人はカソリックなのに、ムスリムだと差別したり、病原菌が手についてるなど医師が率先してデマを流したり、相手を理解しないでひたすら悪口が続き、間違っていることはおかしいという少数派の意見がねじ伏せられていく様子は恐怖です。そのうえ、白人同士でもやがてはルーマニア人とハンガリー人で対立するなど、いったい人間の差別意識はどこまで続くのか。

 一方、粗野で暴力的なマティアスを主人公に据え、ヒロイン役のシーラも外国人労働者を守ろうとしますが、マティアスとの不倫関係に悩まされる欠点のある女性としても描かれています。これは人間、善にも悪にもなりえるし、観客一人一人もこういう場面に巻き込まれたらどうなるのか分からないということを浮き彫りにしているように思えました。排他的な住民が悪、主人公側が善という単純な問題ではないのです。

 そして、ある種幻想的なラストが秀逸。見た人によってとらえ方は異なるでしょう。こういう白黒はっきりつけないあたりがヨーロッパ映画らしいですね。工場のコンサートでハンガリー舞曲が演奏されるのも意味深。トランシルバニアといえばドラキュラで有名ですが、現代のグローバル経済のほうがはるかに吸血鬼として住民の財産や心を壊していると思ってしまいました。
posted by 映画好きパパ at 18:00 | Comment(0) | 2023年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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