作品情報 2023年日本映画 監督:山崎貴 出演:神木隆之介、浜辺美波、吉岡秀隆 上映時間125分 評価:★★★★★(五段階) 観賞場所:109シネマズ湘南 2023年劇場鑑賞387本
【ストーリー】
太平洋戦争末期、特攻隊員だった敷島(神木隆之介)は死ぬのが怖くなり飛行機が故障したふりをして大戸島に不時着する。その晩、謎の巨大生物ゴジラが大戸島を襲い、敷島はまたも逃げ出し命は助かったが、守備隊は全滅。心に深い傷を負った。
腹心した敷島は闇市で追われている赤ん坊連れの若い女性典子(浜辺美波)を助ける。赤ん坊は空襲で死んだ見知らぬ女からたくされたもので、血の通わない3人は身を寄せ合うように一緒に暮らしだす。国の機雷除去の仕事に参加した敷島は、機雷除去船とは名ばかりのぼろ船の船長・秋津(佐々木蔵之介)、見習いの水島、博士という綽名の技術者・野田(吉岡秀隆)と一緒に船に乗り込む。ところが、またもゴジラが現れ…。
【感想】
敗戦という多くの国民が国を信じなくなった時代を背景に、ゴジラが東京を再び焼け野原にします。本作は敷島をはじめ、人間の視点からゴジラを見上げるアングルが多く、それが非常に怖い。さらにゴジラは逃げ惑う人間を加えて放り出すなど、露骨に人間を殺そうとします。シン・ゴジラなど最近のゴジラは悠然と歩いて逃げ出す人々など気にしていなかったのとは対照的でまた怖さをまします。もっともキングコングは人間を食べていましたが、さすがにゴジラを人食いにすることまではできなかったのでしょう。
できなかったといえば、ゴジラが東京を焼け野原にする意味も相変わらず不明。シン・ゴジラは都心まできたときに熱戦を発射してエネルギーがきれてとどまりましたが、今回のゴジラは銀座を破壊しつくした後に、また海に戻り、さらにもう一度来ようとします。これまたお約束ですが銀座は壊されたのに、目と鼻の先の皇居には熱線の影響はあったでしょうけど描写がない。戦争で日本という国家への不信感があふれる時代をとりあげるのなら、皇居を壊れてもいいのにと思いましたが、これまた不可能なんでしょうね。
ただ、政府はゴジラが東京に迫ってることを隠ぺいしていますし、米軍はソ連との対立を恐れて軍事行動を起こせません。結局、敷島をはじめ旧軍人の民間人たちが力を合わせて対抗するという基軸は素晴らしいアイデア。政治家が本作には一切登場しないのも、怪獣映画としては画期的では。
破壊シーンは明らかにCGぽいところもありましたが、概ね及第点。せっかくなら迫力のあるスクリーンでみたほうがいいでしょう。冒頭、大戸島が襲われたのは夜なので、予算の兼ね合いで撮りやすい夜にしたのかと思いきや、東京の破壊シーンは真昼間でした。予告編で美味しいところをずいぶんだしてますが、それでも怪獣映画の醍醐味があります。ただ、ここでも、群衆を踏みつぶすのに遺体が映し出されないのはちょっと不満。また、敷島はゴジラが東京に向かっているのをしっていて、愛する典子を銀座に送り出すのも突っ込みどころでした。
ともあれ、クライマックスで敷島や野田をはじめとする民間人が知恵と勇気を結集してゴジラに挑むシーンは、ゴジラのテーマをBGMにしたこともあり、テンションあがりまくり。ある程度予想がつくとはいえ、敷島の「自分の戦争は終わってない」というテーマによくあっていました。
神木と浜辺のコンビは、朝ドラの「らんまん」で観たばかりですが、相性はぴったり。最初は荒れていた典子が疑似家族をもって落ち着く様子は、浜辺と神木の信頼感があってこそ。また、神木がショックを受けたときに、浜辺の胸に顔をうずめるシーンがありましたけど、恋人の色気というより完全に家族の安心感を求めるものというのも納得しました。戦後すぐなのに、特攻帰りより美少女のほうがメンタル強いというのは現代風のジェンダー観かもしれませんが。
シン・ゴジラでは多くの俳優を政治家、官僚という機械的な役柄としか切り取っていませんでしたが、本作は神木、浜辺、吉岡、佐々木といった中心メンバーは熱い演技もあって、血が通っている人間だという実感を伝えてくれます。それだけにゴジラの怖さが際立っていて、うまいと感心させられました。
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